業者イジメはパワハラ? コンプラ違反?読めば分かるコンプライアンス(11)(4/5 ページ)

» 2008年09月24日 12時00分 公開
[鈴木 瑞穂,@IT]

つかの間の祝杯

神崎 「いやぁ?、西山、転職フェアは大成功だったじゃないか! おめでとう! 乾杯!」

西山 「悪いねぇ。今日は神崎のおごりだな」

神崎 「いや、それとこれとは別問題だ。『おめでとう』は飲み会の口実だよ。たまには名目のある飲み会もしたいじゃないか」

西山 「なぁんだ、そういうことかい」

神崎 「でも、ほんと、大成功だったようだな」

西山 「まぁな。ウチのブースのデザインは出展企業の中でも特に目立ってたし、来場したアプリカントの数もダントツだったらしい。人事部の話では、フェア終了後の面接申し込みも50人を超えるようだ。中途採用20人獲得という目的は達成確実らしい」

 ついでに、自分の評価が「A」になる可能性も極めて高い。フェア終了後の総括ミーティングで、プロジェクトリーダーが西山の仕事ぶりを高く評価していると明言していたし、ミーティングの後には、西山に「施設管理部長には最高の仕事をしたと報告しておくよ」とまでいってくれた。

 プロジェクトリーダーの評価はまず間違いなく「A」だろう。そうすると、総合評価も「A」になるはずだ。そうすれば、マネージャに昇格する確立は極めて高くなる。マネージャに昇格したら……。

 さすがに西山も、神崎にはそこまではいわなかった。すべては、総合評価が明らかになってからのことである。いまは単純に、神崎という同期入社の仲間と達成感に浸り、成功を味わうことにした。

 ところが、その数日後、神崎は西山の祝賀ムードをいっぺんに吹き飛ばす電話を受けることになった。

ほころんだ悪巧み

富岡 「もしもし、神崎さん? フェニックスの富岡です。お忙しいところ、すみません」

神崎 「おや、富岡社長! お久しぶりです」

富岡 「こちらこそ、ごぶさたしてます」

神崎 「先日は、転職フェアでウチの西山がお世話になったようで。おかげで、大成功だったと喜んでましたよ。で、今日はどうしたんです?」

富岡 「ええ……。それが、その、ちょっといいにくいんですが……。実は、その転職フェアの件なんですけど……」

 富岡社長は、転職フェアの2週間半ほど前に西山と最終的な打ち合わせをした際に、西山から、今年の暮れのリモデリングの仕事を保証した上で、55万円の支払い時期の先延ばしを要請され、仕方なく同意した経緯を説明した。

富岡 「そのときは、資金繰りが厳しくなるけど、何とかやれるだろう、やっていこう、と思ったんですが、転職フェアの後、別のお客さんのお仕事が、先方のご都合で延期になりましてね。それで、恥ずかしながら、資金繰りがまったく行き詰まったというわけなんです。暮れのリモデリングのお仕事はお約束していただいてるんですけど、そのお支払いの時期となるとまだ3〜4カ月は先の話ですし、御社のような大企業と違って、うちのような零細企業では、いま目の前の55万円が大金なんですよ。それで、何とかならないかと思って神崎さんにお電話した次第なんです……」

ALT 神崎 亮太

 神崎は驚いた。これでは業者イジメといわれても仕方のない状況ではないか。あの温厚で常識人の西山がなぜそんなことをしなければならないのか、なぜ「291万円」にこだわったのか、訳が分からなかった。

 しかも……。はっきりとは分からないが、見積額は「346万円」なのに見積書には「291万円」と記載させているのは、もしかしたら契約違反なのではなかろうか。この件をそのままにしておいたら、グランドブレーカー社は何らかの責任を追及されることになるのではなかろうか。

 神崎は、自分にはこの問題をこれ以上深く正確に考える知識も能力もないことを知っていた。ここはやはり、赤城さんに相談するしかない。

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