まだ始まっていない本当の仮想化運用管理目指せ! ネット時代の幸せな管理者(12)(2/2 ページ)

» 2008年11月27日 12時00分 公開
[川村 聖一,@IT]
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仮想化に向いているか考えよう

 VPSサービスは、低価格で大変好評かと思います。運用実績もそれなりに積んできていますが、個人的にはこれを仮想化として考えるには若干抵抗があります。なぜなら、単品サーバを借りているにすぎないからです。それがVPSというソフトウェアボックスに含まるだけです。

 仮想化というのは、リソースが必要なときに手に入るスピードと柔軟性が肝であり、これを必要とするのは単なるVPS借りではありません。ピークを迎えるアクセス、短納期化するプロジェクトの救世主とならなければ何の意味もありません。こうなったときに単純なVPSでは、急なピーク時の救世主にはなりません。ベストエフォートではサーバ側のビジネスは救えないからです。リソース管理は「いかに?」がキーとなります。

 ここである事例を1つ取り上げましょう。1台のリモートアクセス装置に、複数ユーザーを収容するというケースがありました。しかし装置の仮想化といっても、基本となる部分(ルーティング、証明書管理など)は一元化されていて、ユーザー管理やポリシー管理のみが仮想化されているとします(多くのアプライアンス装置はこのたぐいの仮想化方法を取る)。ある急な案件で、突如収容しなければならないユーザーの通知がきました。ところが、コア部分でIPアドレスの重複、証明書に対する用件の不一致、運用用件や監視用件の不一致からどうしてもユーザーを収容することができませんでした。

 このように、仮想化できない、もしくはしにくいケースはたくさんあります。その当否はシステムによってさまざまでしょうが、利用する側としてはまずベンダやサービスプロバイダに相談する前に、「これはどの程度わがままをきかせたいのか」を明確にすべきでしょう。また、売る側としても、用件定義が不十分なまま仮想化提案することは避けるべきでしょう。

複雑なシステムは、当然考慮すべきことが多い

 物理的に異なる仮想サーバを組み合わせてサービスを収容できるかは、いろいろと面倒なことを考慮する必要がありそうです。

 例えば、1つのポータルサイトの処理を複数の仮想サーバに分散して処理させようとします。もし、この仮想サーバがすべて異なる物理装置に収容し、かつ最も悪い条件を想定すると、各物理サーバが持っているリソース状況(メモリ容量、CPU、ネットワークの品質)が異なる場合や、同居しているサービスが必要とする帯域がまったく異なる場合、正しく負荷分散できるでしょうか。

 負荷分散でなく、まったく同じ条件として思い込み、1つのサイトを機能ごと(例えばポータルの本体は仮想サーバA、広告類は仮想サーバB、Flashコンテンツは仮想サーバCなど)に分散させた場合、適切なリソース配分を受けている仮想サーバに分散することが可能でしょうか。確かに仮想サーバという技術単体で見れば、何とかなるかもしれません。

 しかしこれがネットワークやセキュリティ装置などとの組み合わせが入ることで、うまい組み合わせが実現できない場合があります。現時点でこれらを統合して管理することはかなり難しい状況です。単なるサーバ仮想化を利用するだけではないことが問題を複雑にしています。

いま仮想化に必要なもの

 仮想化が急速に普及し始めているものの、運用管理の実務などが追い付いていない状況は、早急に改善されなければなりません。執筆時点では、仮想化のメリットを生かしつつ有効な運用を支援するツール類は数が少ないようです。

 仮想化というコンセプトで必要となってくる技術は、装置提供者に依存することが多いようです。また、複数の物理装置にまたがる仮想サイト運用については、成功条件も定義されていない状況です。ここで必要となるのは、システム管理者自身にとって成功する仮想化利用の条件でしょう。

 システム管理者といっても、各自が置かれた状況により、管理しているシステムは多義にわたるでしょう。もし仮想化のメリットを享受したいのであれば、管理者自らがシステムで仮想化に向いているものと向いていないものを、事前に整理することから始めるべきではないでしょうか。

 現時点でお勧めなのは、ロードバランスを考慮しなくてよいもの、サーバサイドのアプリケーションが深い階層になっていないもの、単純なストレージなどでしょう。最も避けたいのは、システム運用現場が「仮想化を日々の運用で意識しないといけない」ということです。それだからこそ、仮想化で達成できる適用範囲を少しずつ広げていきながら、最適な解を模索していく必要があるでしょう。

著者紹介

▼著者名 川村 聖一

2001年 日本電気株式会社入社。キャリア営業、法人顧客SEに従事。

2004年 同社ISP部門へ異動。ISPネットワーク設計・構築、新技術導入、ISMS取得に従事。

2006年 NECビッグローブ株式会社へ出向。法人向けアウトソースサービスのコンサルティング・設計・運用を担当。Internet Weekプログラム委員。

2007年 JANOG運営委員として活動。

▼著者名 仲西 亮子

2000年 三井情報開発株式会社(現:三井情報株式会社)入社。

2000年 外資系ISPの技術部へ出向、IPアドレス管理やドメイン名管理業務に従事の後、同社iDCのバックボーン運用業務従事。

2002年 三井情報開発株式会社でiDC事業開始と共に出向解除。同社でASの管理・運用業務に従事。

2005年 同社のiDC事業部がMKIネットワーク・ソリューション株式会社として子会社化。これに伴い、MKIネットワーク・ソリューションズ株式会社へ出向、現在に至る。

2007年 JANOG運営委員として活動。

▼著者名 山崎 佑司

1999年 ソニーシステムデザイン株式会社(現:ソニーグローバルソリューションズ株式会社)入社。ソニー本社をはじめとした、大規模エンタープライズネットワークの設計、構築、運用を担当。

2001年 ソニーグループのショールームや、ソニーグループが主催する各種イベントにおけるネットワークシステムの企画、設計、構築、運営を手掛ける。

2003年 ソニーグループiDCのネットワーク運用業務に従事。データセンターインフラの設計、構築等の業務を行う。

2006年 テオーリアコミュニケーションズ株式会社入社。システムインテグレーション全般を担当する。

2007年 JANOG運営委員として活動。


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