業務改革とシステム革新は“両輪”で進めろ! ──システム化計画編進化するCIO像(5)(2/2 ページ)

» 2008年12月18日 12時00分 公開
[碓井誠(フューチャーアーキテクト),@IT]
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効率的な「システム化計画」の手順

 さて、以上のように、システム構築手法は「システム化計画手法」と「システム開発手法」の大きく2つに分けられる。今回はこのうち「システム化計画手法」に絞って詳しく説明しよう。

 このシステム化計画手法は、1992年以降、7年にわたり、米国セブン-イレブンの買収や、その再建の支援を行った際に、“業務改革とシステム改革の推進手法”として整備を図ってきたものである。当然セブン-イレブン・ジャパンでも活用し、これをブラッシュアップしたものをフューチャーアーキテクトの標準手法としても活用している。

 図2はその概要を示している。「Step0 環境分析」から「Step9 システム化計画作成」までの、一連の流れに沿ってシステム化計画を作成する。 

効率的なシステム化計画の手順 図2 システム化計画手法の全体像。この流れに沿ってシステム化計画を進めれば、“現場”の偏った意見に惑わされることもなく、常に総合的な視点を保ちながら、業務改革とシステム化計画を同時に進めることができる

 第1の大きな特徴は、例えばStep3とStep4、Step6とStep8の作業にも見られるように、業務改革とシステム構築を同時並行で進めることである。そして、そのためには、現場との連携や自ら経験する中で蓄積した実務ノウハウを利用したり、他社も含めたこれまでの成功事例を参考にしたりしながら検討を進めることである。

 第2の特徴は、環境分析、方針・戦略分析、現状分析、情報技術適用をベースに、業務面、システム面の「あるべき機能イメージ」を整理するStep2にある。あるべき機能を、業務機能、システム機能とそれを支えるIT技術機能という3つの側面からイメージし、課題解決提案の方向性と、そのための機能イメージを持ったうえで、Step3の現状分析やヒアリングを行うのである。

 「あるべき機能イメージ」を先に持っておくことで、現状分析の範囲や深さの“全体感”や“分母の大きさ”をイメージできるため、常に総合的な視点を保つことができる。特に、現場にありがちな“ある一側面の理解”に縛られたり、“声の大きな意見”に左右されないためにも、この手法と調査手順を活用することが重要である。

 この手順が重要となる具体例を示すと、第3回「CIOは戦略的視座を持て」の「戦略・方針整理のポイント」において説明した、「過去2年間の主要会議や、会社方針、事業展開と業績推移の分析から、方針の整理とあるべき組織・業務の機能を組み立てる」アプローチなどが挙げられる。これは、その具体的な手順を示したものである。

 第3の特徴は、Step7「情報技術とシステムの評価と適用」である。図示したように、Step1から9までのすべての領域で「情報技術活用」の視点から問題点や課題を評価し、幅広い業務領域での積極的なIT活用と人間系との効果的連動を検討し、組み立てることが重要である。ここでは、ITの評価力、活用力に加え、必要に応じて「ないものは造る」といった開発力と意志、これを実現するパートナー連携が不可欠となる。

合理的、スピーディにシステム化の全容を洗い出す

 さて、手法の流れのポイントを、最後にもう1つ説明しよう。

 システム化のプライオリティを決める重要なステップとして、Step5「ギャップ分析と変革テーマ設定」がある。Step2の「あるべき機能イメージ」の視点で、Step3「現状分析」、Step4「現行システム分析」を行うことで、あるべき姿と現状のギャップが抽出される。

 このギャップ分析を行うことで、変革すべきテーマを明確にし、テーマの重要性、投資効果の見込み、時間軸でのフェイズ割りなどを評価して、システム化のプライオリティを決定していくのである。図3は、こうした検討を経て整理した、ドラッグストアA社のシステム開発のプライオリティである。

“あるべき機能”から“ギャップ”を、“ギャップ”から“テーマ”を、“テーマ”から“プライオリティ”を導き出す 図3 「あるべき機能イメージ」を基にギャップを把握し、ギャップから「変革すべきテーマ」を明確化し、テーマをあらゆる角度から精査して、システム化のプライオリティを決めていく。こうすることで計画の全容を正確に整理・把握できる

 商品情報整備による品揃え・商品開発力の向上、発注・物流システム再構築による商品調達・安定供給の整備──つまり「本部のマーチャンダイジング力の強化」が第1プライオリティであり、その次に、店舗業務を改善・改革する支援システムと、経営数値管理システムの構築を位置付けた。

 そして「顧客サービス向上のための支援システム」は、基本システムの再構築によって業務とデータの品質を上げたうえで、本格的な再構築を行うこととした。このように、プライオリティとシナリオを明確にして、計画の全容を整理することもシステム化計画の目的である。

 さらに、プライオリティを決めた次のステップでは、それを実現するためのビジネスプロセスを整理し、業務フローを定義していく。そしてこれらを実現するシステムイメージを作成し、システムの実現方式とハード、ソフトの概要を取りまとめる。そして最終的にシステム化計画のまとめを作成する。

システム化計画は、的確な経営判断の基礎資料

 セブン-イレブンでは、5〜7年ごとにシステムの大規模な再構築を行ってきたが、これらのシステム化計画には1年半から2年を要している。全社の部長以上が参加するトップ主催の業務改革会議において、「店舗システム」「発注・物流システム」「情報分析・共有システム」といった大きな括りの議題を設定し、それぞれの業務改革とシステム再構築について、議論や方向付けを行ってきた。

 1997年から2000年にリリースされた第5次総合情報システムでは、毎週2時間、連続11回にわたってシステム構築の議論、評価がなされ、ときには否認、再提案を繰り返し、方向性が決定された。システム化計画とは、こうした全社検討と、的確な経営判断を行うための基礎資料となるものであり、業務改革会議という難関を突破することで、全社方針としてオーソライズされていくのである。

 企業によって改革のアプローチや手法、意志決定の方法は異なり、システム化計画のような手法を、時間と費用をかけて実行することは難しい面もあると思う。しかし、こうした手法を参考に、プライオリティを判断し、スピーディにシステム化計画を行うことが、これから求められる方法論であろう。


 今回は、システム構築の前段に当たる「システム化計画」について述べた。次回は、後段に当たる「システム開発の方法論」と、開発体制の組み立て、運用について話をしたい。

著者紹介

碓井 誠(うすい まこと)

1978年セブン-イレブン・ジャパン入社。業務プロセスの組立てと一体となったシステム構築に携わり、SCM、DCMの全体領域の一体改革を推進した。同時に、米セブン-イレブンの再建やATM事業、eコマース事業などを手掛けた経験も持つ。2000年、常務取締役システム本部長に就任。その後、2004年にフューチャーシステムコンサルティング(現フューチャーアーキテクト)取締役副社長に就任し、現在に至る。実務家として、幅広い業界にソリューションを提案し、その推進を支援しているほか、産官学が連携した、サービス産業における生産性向上の活動にも参画。さらに各種CIO団体での活動支援、社会保険庁の改革委員会など、IT活用による業務革新とCIOのあり方をメインテーマに、多方面で活動を行っている。


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