“企業に役立つリスクマネジメント”を振り返るビジネスに差がつく防犯技術(14)(2/2 ページ)

» 2009年07月09日 12時00分 公開
[杉浦司,杉浦システムコンサルティング,Inc]
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法令対応はリスクマネジメントから考える

 公益通報者保護法の対象法令はいくつあるかご存じだろうか。

 公益通報者保護法は事業者や行政機関、報道機関に通報できる制度であり、国民の生命、身体、財産などの保護に関するもので、刑罰規定のある413本の法律が対象となっている。 企業が社内に公益通報の窓口や教育体制などを作っていない場合、通報者は国やマスコミに駆け込めるというわけだ。

 413本もある法律の内容を1つ1つ吟味し、対応策を考えるのは得策ではない。どの法律が自社に関係するのかを知るためには、社内リスクを体系的に洗い出すリスクマネジメントの取り組みが、やはり有効なのである。

リスクが見えない業務フローに意味はない

 公益通報者保護法への対応でもリスクマネジメントの取り組みが必要だと述べた。

 誰が何をしているのか分からないのではリスク対策を打ちようがない。そのために業務フローを作成することになる。

 しかし、業務フローがあっても「形だけ」や「見せるため」では意味がない。業務フローはきれいに書くことも、細かなところまで正確であることも重要ではない。必要なことは「そこからリスクが見えてくるか?」という点に尽きるのだ。

どっちかがやるのではなくどっちもやらない

 そのボールはどっちが取るのか、企業においてもお見合いプレーは少なくない。

 製品在庫に対する製造部と営業部、電子文書に対する総務部と情報システム部、従業員注文に対する消費者営業部門と法人営業部門などなど。

 どっちかがやるだろうという場合の多くは、結局、どっちもやらないということが多い。実務では責任権限の境界線が不明確になっていることを認識しているにもかかわらず、余計な仕事が増えることを恐れて、そのまま放置しているケースが少なくない。

被害算定で現実味を持たせる

 やらなくてはいけないことは誰もが分かっているのに、手つかずになっている場合の多くが、まあ、大丈夫だろうと高をくくっている。

 見えないリスクは恐くないのだ。

 リスクマネジメントに取り組み出したとしても、何かあいまいなままで結論が出ないということがないだろうか。リスク評価で影響の大きさを知る現実味のないリスク議論では結論を導き出せないのだ。身近に感じられる具体的な問題が結果的にどのような被害をもたらすのかといった視点から認識を合わせておくことが重要である。

事業継続計画で起きた後まで考える

 優良企業が無事故をうたうことは多い。しかし、無事故を目指すことと、無事故しか許さないということとは意味が違う。どれだけ予防策を徹底しても起きるものは起きる。「絶対起こさない」だけでは無責任なのだ。

 事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)を策定することは、損害の最小限化と早期復旧だけでなく、顧客信用の維持と社会から高い評価を受けることにつながる。肝心の事業継続計画だが、何十ページもあるぶ厚いマニュアルを用意するものもよいが、いざというときに本当にそのマニュアルで行動できるだろうか。

 落ち着いて対応できないときにノウハウ集はあまり役に立たない。それより、ノウフー集を作成しておくことをお勧めする。これはこの人に聞けばよいうという人を集めれば、緊急時の対応体制となるはずである。この人たちの携帯電話番号と電子メールを緊急連絡先として登録しておくことは当然だろう。

最後に伝えたいこと

 リスク対策としてリスクコミュニケーションが注目されている。

 苦情に対しても誠実に耳を傾け、いいにくいことでも真摯(しんし)に伝える姿勢が信頼関係を築く。その半面、ウソや不誠実な対応は容易に信頼関係を崩壊させる。コミュニケーションの善し悪しがリスクを軽減し、ときには増大させてしまうのだ。

 イソップ物語の少年は「オオカミが来た!」とうそをつき続けていたため、本当にオオカミが来たときに信じてもらえなかった。これを子供向けの童話として片付けてしまっていいだろうか。社内のルールが本当に有効に機能しているのか真剣に点検されることを提言し、この連載を終えることとする。

筆者プロフィール

杉浦 司(すぎうら つかさ)

杉浦システムコンサルティング,Inc 代表取締役

京都生まれ。

MBA/システムアナリスト/公認不正検査士

  • 立命館大学経済学部・法学部卒業
  • 関西学院大学大学院商学研究科修了
  • 信州大学大学院工学研究科修了

京都府警で情報システム開発、ハイテク犯罪捜査支援などに従事。退職後、大和総研を経て独立。ファーストリテイリング、ソフトバンクなど、システム、マーケティングコンサルティング実績多数。


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