これらの例をざっと見ると、「手続きの運用ができていないことにより、重要な修正を行った」という形が多いですね。せっかく手続きが設定されているのに、それに従った処理がなされていないという、よくあるケースです。
また、「能力のある担当者によって適切に査閲、分析および監視する内部統制が有効でない」というタイプの不備もあります。これは、実体は分からないですね。そもそも“能力ある経理担当者”といっても、どの程度の能力があればいいのかという基準がありませんし、こういう書き方になるのは、恐らく、重要な誤記載が起こったために「内部統制が有効ではない」という表現の内容を、いわば包括的に記載したのでしょう。
そして、ここでも子会社のプロセスの内部統制が問題であるケースがあります。
1と2は、典型的なチェック漏れによる誤記載だと思われます。3は、「能力ある経理担当者による」と書いてありますね。恐らく、監査法人に記載した経理処理の間違いを指摘された会社が、このようにコメントしたのでしょう。4の連結子会社については、前述しましたが、なかなか目が届かないところがあります。今回は欠陥とならずに通った会社でも、これからも要注意項目です。5は、システムの「運用・保守管理規程」はあるが、ちゃんと運用されていなかった、という例ですね。これも、「規定はあるが、守っていない」の典型例です。
「事業年度の末日後に重要な欠陥を是正するために実施された措置がある場合」には、その是正措置の内容と有効性を「付記事項」として記載できることになっています。
これは、期末には間に合わなかったとしても、企業としてできるだけ早く是正することが重要であること、そして、是正されていることを、株主ほか関係者に開示することが双方の利益にかなうからです。
実際、評価結果に「重要な欠陥があり、内部統制が有効でない」と記載した56社のうち、事業年度の末日後に重要な欠陥を是正するために実施した措置を記載し、かつ、内部統制報告書提出日までに、重要な欠陥が是正されたと記載した会社が11社ありました。
そのほか、56社の内部統制報告書に対する「内部統制監査報告書」における監査人の意見は、55社が無限定適正意見、1社が意見不表明でした。
さらに、評価結果に「重要な欠陥があり、内部統制が有効でない」と記載した56社の「財務諸表に対する監査報告書」の監査意見は、54社が無限定適正意見、1社が限定付適正意見、1社が意見不表明でした。
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これまで、この連載「SOX法コンサルタントの憂い」をご愛読いただきありがとうございました。この回をもちまして、SOX法については最終回とさせていただきます。なお、これからは新連載「経済危機の本質とリスクマネジメント」を予定しておりますので、引き続きご愛読ください。
鈴木 英夫(すずき ひでお)
慶應義塾大学経済学部卒業、外資系製薬会社で広報室長・内部監査室長などを務める。2004年から、同社のSOX法対応プロジェクトコーディネータ。現在は、aiリスクコンサルテーション代表、内部統制・リスクマネジメントコンサルタント。プランナー・オブ・リスクマネジメント、内部監査士。神戸商工会議所登録エキスパート。危機管理システム研究学会会員、リスクマネジメント協会「大阪企業広報リスク研究会」リーダー。
著書:「図解日本版SOX法」(同友館、共著)
近著:「日本版SOX法実践コーチ」(同友館、共著)
連絡先: ai-risk330@jttk.zaq.ne.jp
Webサイト:http://spinel3.myftp.org/hideo/ai-risk.htm
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