運用ルールの徹底が、仮想化活用の必須条件──アステラス製薬特集:実用フェイズに入った仮想化(4)(2/2 ページ)

» 2009年09月16日 12時00分 公開
[内野宏信,@IT情報マネジメント編集部]
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ツール導入以前に、まず運用ルールを明確化すべき

 ところで、仮想環境に移行すると、物理的な観点でシステム構成を把握することが難しくなるため、運用管理がポイントになるといわれている。同社では運用管理ツールとして「Microsoft System Center Virtual Machine Manager 2008」を採用。GUIベースの管理コンソールで、複数の物理サーバとその上で動く仮想サーバを可視化する機能を確保し、確実に管理できるよう配慮した。

 また「Windows Server 2008」は、物理サーバが故障したときにほかのサーバがサービスを引き継ぐフェイルオーバー型のクラスタリング機能、「Microsoft Failover Cluster」を装備している。これを活用して、万一、5つのゲストOSを載せた物理サーバが故障しても、ゲストOSを2つと3つに分割し、負荷を分散させたうえで別のサーバに自動的に移行する仕組みを築いた。

 ただ、竹沢氏は、「仮想環境の運用管理は、ツールの導入以前に、確実に管理するためのルール作りが不可欠だ」と指摘する。仮想化するとシステムの構成情報が把握しにくくなる反面、仮想サーバは手軽に用意できてしまう。従って、運用ルールを明確化し、徹底させなければ、混乱の原因となるためだ。竹沢氏は「サーバ乱立の危機感は常に感じていた」と話す。

 そこで今回の本格展開に合わせて複数の対策を実施した。まず物理サーバを管理する「物理サーバ台帳」に加えて「論理サーバ台帳」を作成、両者をひも付けた管理に変更した。システム変更管理業務についても、変更内容を両方の台帳に反映するプロセスを組み込み、確実に記録できるよう配慮した。

 新規のハードウェア購入は原則禁止。併せて、仮想サーバ構築の「標準ガイドライン」を策定し、業務部門からサーバ立ち上げの要請があった際には、「どんなアプリケーションのために使うのか」を明記した申請書を作成させ、関係者間の会議で認められたものだけに許可する仕組みとした。さらに、リソースの容量に応じて仮想サーバを3種類に限定。その中から機能要件に応じて選んでもらい、一定の手順に沿って実装する体制としている。

 「仮想化のメリットはリソースを柔軟に活用できること。しかし、そうした柔軟性は混乱にもつながる。仮想化のメリットを享受するためには、必然的に“確実な運用管理”がポイントになる」(竹沢氏)

計画的に取り組めば、ITインフラを大幅に整理・標準化できる

 ただ、IT資産については全社的な視点で管理せず、各業務部門が個別に管理している例が多い。その点、同社のように部門をまたいで管理することは、一般的には難しいことなのではないだろうか。この点について竹沢氏は、「弊社の場合、以前からコーポレートIT部が全社のITシステムを管理・統制している。仮想化技術を利用する場合、こうした体制は確かに大きな利点だと思う」と分析する。今後についても、「このアドバンテージを生かして、仮想環境の高度化を推進していきたい」と語る。

ALT 「中長期的な視点で取り組めば、仮想化ならではのさまざまな可能性がみえてくる」と語る両氏

 特にいま注目しているのが、仮想サーバを稼働させたまま瞬時に別の物理サーバに移行させられる、ヴイエムウェア製品の「Vmotion」機能だ。マイクロソフト製品にはこれまで同様の機能がなかったが、「Windows Server 2008 R2」に搭載される「Hyper-V 2.0」では「Live Migration」という名称で装備される。塩谷氏は、「各データセンターのサーバを仮想化して、Live Migrationと組み合わせれば、ディザスタ・リカバリも実現できる。仮想環境には、現時点ではまだ制約も多いが、さまざまな可能性が開けている。いずれは従来のITインフラ同様に使えるレベルにまで発展させていきたい」と話す。

 一方、竹沢氏は、「ITガバナンスを徹底させれば、仮想環境への移行は、ITインフラの大幅な整理、標準化につながる。初期投資の大きさを恐れず、中長期的な視点で取り組めば、永続的な効率化に大きく貢献するはずだ」と、あらためて計画的な取り組みの重要性を示唆した。

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