手順を共有していないから、改善活動が混乱するプロが教える業務改善のツボ(3)(2/2 ページ)

» 2010年08月10日 12時00分 公開
[松浦剛志,プロセス・ラボ]
前のページへ 1|2       

業務改善の“現場”で使える「目標設定」術

 では続いて2つ目の注意点、「目標の設定」について解説しましょう。「目標の設定」は、前のページの「一般的な手順」における、「3.改善目標の設定」、「筆者のコンサルティングプログラム」の手順であれば「3.目標設定」のプロセスに当たります。この「目標の設定」について段取り上、注意すべき点は「いつ目標を設定すべきか」というタイミングと、「どのような数値にするか」という設定方法の2点になります。

「目標」はいつ、どのように設定すべきか?

 ところで、そもそも改善の対象となる「問題」とは何でしょうか? これは「現実と目標とのギャップ」といえます。ということは、問題を特定するためには、「現実」と「目標」の両方が先に存在しないといけません。例えば問題を特定する際、「○○のリードタイムは、目標が○日なのに対して、実際にはその倍かかっており、これは問題である」というように。

 そうすると、何よりも先に「目標」の設定がないといけないはずです。しかし、問題を特定する際、目標がすでに明確であるケースはむしろまれです。

 多くの場合、「歩留まりが悪い気がする」とか「お客さまのリピート率が低い気がする」などのように、目標が明確でない中で、漠然とした問題がわき出てきます。現実の業務改善プロジェクトにおけるこのような流れを考えると、「目標の設定」は1番最初ではなく、もうちょっと後の手順にすべきと感じられると思います。

 また、「原因が分からないと目標は設定できない」「改善策によって、目標の現実性が変わってくる」という事情もあるでしょう。そのように考えると、「目標設定」をするタイミングは、手順として「原因分析」や「改善策立案」の後ということになるはずです。

 このように、実際の業務改善プロジェクトではさまざまな事情が絡むため、「いったいどの段階で目標を設定すべきか」迷いがちなものです。そこで以下では、筆者のコンサルティングプログラムで「目標設定」の手順をどのようにとらえているのかを紹介しておきましょう。

 説明のために、前のページで紹介した筆者のコンサルティングプログラムの手順をもう1度紹介します。筆者がコンサルティングプログラムを進める際には、まず「1.問題提起」の手順において「目標」を考えるのですが、その際には「目標」を「個々人が漠然と持っている“ありたい姿”(理想)」ととらえ、続く「2.問題確認」の手順も含めて、これらの段階においては完全に明確化することをあえて避けています。

  1. 問題提起(違和感=問題意識を感じることを共有する)
  2. 問題確認(提起された問題を具体化・定量化し、解決すべき問題を明確にする)
  3. 目標設定(問題が解決された状態を暫定的に決め、その測定手段を明確にする)
  4. 原因分析(問題を引き起こしている原因を特定する)
  5. 改善策立案(原因を除去する解決策を複数考える)
  6. 改善策評価(複数の解決策から1つの解決策を決定する)
  7. 実行計画作成(解決への段取りを考える)
  8. 実行(解決策を段取りにそって進める)
  9. 評価(解決したかどうかを評価する)

 一方、「3.目標設定」の手順では、目標を「プロジェクトにかかわる全員がおおよそ共有できる、ありたい姿(理想)」と考え、根拠の薄い数値でも“決め”によって設定します。

 例えば「顧客のリピート率の改善」というテーマを例に取ってみると、「目標は30%」など、根拠がなくても“決め”てしまうのです。目標設定のための手法としては、「過去からの推移」「ベンチマーキング」「上位目標からのブレークダウン」などの根拠を使う場合もありますが、それらがない場合は希望的総意で“決め”てしまいます。

 ただし、「目標とする数値」自体は根拠が薄くても、「何を、どのように測定するのか」については明確に設定します。上記の例で言えば、目標である「リピート率」という指標の中身について、きちんと明確化します。例えば「リピート率とは、過去1年に購入実績のある人の再購入である」など、「その指標がどのようなものであり、その指標を成す数値はどのようにはじき出すのか」を正確に決めておくのです。

 「3.目標設定」の手順が完了した後に、「4.原因分析」の手順において、「原因を除去すれば、当初の目標値は大幅に超えられるだろう」となった場合には、「3.目標設定」に立ち返り、目標を再設定することになります(ちなみに、このときに再設定する数値は、「見込み」プラス「やる気を刺激する伸びシロ」が基本です)。

 同様に、「6.改善策評価」の手順において、「その改善策は有効だが費用が掛かりすぎるので、少ない費用で済む次善策で対応しよう。ついては当初決めた目標を、もう少々低く設定しよう」となれば、再度「3.目標設定」に立ち返り、目標を再設定することになります。

 このように、現実の業務改善においては、「何を、どのように測定するのか」さえ明確化すれば、「目標数値」自体はかなりラフに決めても良いのです。その代わり、以上のように数値の変更が必要になったら、いま現在どの手順にあっても、もう1度「3.目標設定」に戻って再設定するわけです。

 その際に求められるのが、「自分たちは現在、再度目標設定の手順に戻っている」という認識をメンバー全員が共有しておくことです。そうしなければ、やはり議論が混乱してしまいます。つまり、メンバー全員がプロジェクト内で迷子にならないようにすることが、業務改善の取り組みを合理的に進めるうえで何よりも大切なポイントとなるのです。


 今回は、業務改善プロジェクトを展開するうえで、複数の手順に分けて進めていくことの大切さと、手順が混乱しないための対処法を紹介しました。次回以降も、業務改善の数々のポイントを紹介していきますが、プロジェクトにかかわる全メンバーが、「自分たちはいまどの手順にあるのか」「その手順では何をすべきか」について共通の認識を持ち続けることが、業務改善プロジェクト成功の最大のカギを握るということを、最後にもう1度強調しておきたいと思います。

筆者プロフィール

松浦 剛志(まつうら たけし))

株式会社プロセス・ラボ 代表取締役

京都大学経済学部卒。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)審査部にて企業再建を担当。その後、グロービス(ビジネス教育、ベンチャー・キャピタル、人材事業)にてグループ全体の管理業務、アントレピア(ベンチャー・キャピタル)にて投資先子会社の業務プロセス設計・モニタリング業務に従事する。2002年、人事、会計、総務を中心とする管理業務のコンサルティングとアウトソースを提供する会社、ウィルミッツを創業。2006年、業務プロセス・コンサルティング機能をウィルミッツから分社化し、プロセス・ラボを創業。プロセス・ラボでは、業務現場・コンサルティング・アウトソースのそれぞれの経験を通して培った、業務プロセスを理解・改善する実践的な手法を開発し、研修・コンサルティングを提供している。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ