なぜ、超上流プロセス担当人材を育成できないのか間違いだらけのIT人材育成(5)(3/3 ページ)

» 2010年10月06日 12時00分 公開
[井上 実,@IT]
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パターンによって異なる人材像

 上記で示した超上流の2つのパターンにより、これを担う人材に求められる知識・スキルが異なってくる。

(1)経営戦略起点型を担う人材に求められる知識・スキル

 経営戦略起点型では、「企画プロセス」でまず経営戦略を理解し、経営要求・課題を確認する必要がある。そのためには、経営知識が必要となる。

 次に、経営課題を解決するために各業務がどうあるべきかを描き、それに対して現状がどのように乖離しているかを把握する必要がある。これには、各業務全般の広い知識と業務ごとの改革の定石、また、問題発見解決能力や戦略立案能力などのコンセプチュアルスキルがなければならない。

 あるべき姿との乖離を明確にした後、あるべき姿との乖離を解消するための新しい業務モデルを構築する。新業務モデルを検討する際には、ITを活用することが前提になる。従って、新業務モデルを構築するためには、業務モデル設計能力、システム化能力が必要となる。

 「企画プロセス」の次に、「要件定義プロセス」で新業務モデルに対する現場部門の要求を洗い出し、業務モデルをさらに具体化して業務要件にまとめていく。これを行うには、現場部門の要求を引き出し、整理する業務要求分析能力や、現場の業務要求を理解するための個別業務の詳細な知識が必要となる。

 また、システムとしての機能要件/非機能要件などを洗い出し、整理してまとめていく。これを行うには、業務設計・システム化能力が必要となる。

 このように、「企画プロセス」を担う人材に求められる知識・スキルと、「要件定義プロセス」を担う人材に求められる知識・スキルとでは大きく異なる。例えば、同じ業務知識であっても、知識範囲の広さと詳細度は大きく異なったものが求められる(図表6参照)

プロセス 必要な知識・スキル
企画プロセス ・経営知識
・業務全般知識
・業務ごとの改革の定石
・ビジネス要求分析能力
・コンセプチュアル・スキル
・業務モデル設計能力
・システム化能力
要件定義プロセス ・業務要求分析能力
・個別業務の詳細な知識
・業務設計・システム化能力
(図表6)企画プロセス・要件定義プロセスで必要な知識・スキル

(2)現場要求起点型を担う人材に求められる知識・スキル

 現場要求起点型の多くは、「企画プロセス」を経ずに「要件定義プロセス」に入る。現場要求を洗い出し、業務要件をまとめ、システムとしての機能要件、非機能要件を整理した後、システム化計画を立案していく。そのため、必要とされる知識・スキルは、業務要求分析能力、個別業務の詳細な知識、業務設計・システム化能力である。

 このように、「企画プロセス」と「要件定義プロセス」を経る経営戦略起点型と、「要件定義プロセス」にいきなり入る現場要求型とでは、この2つのプロセスを実施するために必要な知識・スキルが異なるために、異なった人材像が求められることになる。

パターンごとに目標を定めた超上流人材育成を

 ユーザー企業の情報システム部門やIT企業の中で、超上流プロセスを担う人材を求める声は多い。その知識体系として、BABOKに対する期待も大きい。

 しかし、ここまで見てきたように、超上流を中の「企画プロセス」を担う人材と、「要件定義プロセス」を担う人材とでは、人材に求める要件が異なっている。そのため、両方のプロセスを1人で担うことは非常に困難である。

 自社で必要としている超上流プロセスを担う人材が、「企画プロセス」を担う人材なのか、「要件定義プロセス」を担う人材なのかを検討しなければ、適切な人材を育成することはできない。自社が取り扱う、あるいはこれから取り組んでいこうとするITプロジェクトが、経営戦略起点型なのか、現場要求起点型なのかをよく検討したうえで、必要な人材を育成していかなければならない。

 IT企業は、案件創出のために超上流プロセスを担う人材を育成したいという意向を持っている企業が多い。しかし、求める案件が経営戦略起点型なのか、現場要求起点型なのかによって、必要とされる人材像は異なるため、人材像ごとに必要な人数を明確にして人材育成にあたらないと、自社に最適な超上流プロセスを担う人材を育成することはできない。

【参考文献】
経営者が参画する要求品質の確保』(IPA ソフトウェア・エンジニアリング・センター編、オーム社、2005/06)(IPA ソフトウェア・エンジニアリング・センター編、オーム社、2005/06)
共通フレーム2007』(IPA ソフトウェア・エンジニアリング・センター編、オーム社、2009/10)(IPA ソフトウェア・エンジニアリング・センター編、オーム社、2009/10)
ITソリューションフロンティア2005年12月号:超上流工程における検討のポイント』(水野満=著、野村総合研究所、2005/11)(水野満=著、野村総合研究所、2005/11)

著者紹介

▼著者名 井上 実(いのうえ みのる)

グローバルナレッジネットワーク(株)勤務。MBA、中小企業診断士、システムアナリスト、ITコーディネータ。第4回清水晶記念マーケティング論文賞入賞。平成10年度中小企業経営診断シンポジウム中小企業診断協会賞受賞。

著書:『システムアナリスト合格対策』(共著、経林書房)、『システムアナリスト過去問題&分析』(共著、経林書房)、『情報処理技術者用語辞典』(共著、日経BP社)、『ITソリューション 〜戦略的情報化に向けて〜』(共著、同友館)。


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