
「患者の予約管理が煩雑で、待ち時間も長い」「スタッフ間の情報共有がうまくいかず、患者対応に時間がかかる」。こうした病院やクリニックが抱える課題は、CRM(顧客関係管理)システムの導入によって解決できる可能性があります。
医療機関におけるCRMは、単なる患者情報の管理にとどまりません。予約システムの最適化、患者一人ひとりに合わせた情報提供、さらには電子カルテやレセコンとの連携による業務全体の効率化を実現し、医療サービスの質そのものを向上させます。
多忙な医療現場で成果を出すには、医療業界特有の要件(セキュリティや専門用語、業務フロー)に対応した製品を選ぶことも不可欠となるでしょう。本記事では、おすすめの製品とともに、医療機関向けCRMの基本要件から導入メリット、失敗しないための選定ポイントなどシステム導入・検討における指針を解説します。
目次
医療機関が直面する課題とCRMの必要性
まずは医療機関が直面する具体的な課題と、それを解決するCRMの概要や機能、役割を確認していきます。
病院・クリニックが抱える「患者管理」の課題
病院やクリニックの現場では、診療という主業務に加え、患者情報の管理、来院予約の調整、診療記録の整理といった多くの事務作業が発生します。これらの情報がアナログな紙の台帳、あるいは複数のシステムに分散していることで、さまざまな問題が発生している──。こんな課題を抱えているのではないでしょうか。
例えば「予約の重複(ダブルブッキング)」「電話の聞き間違いによる患者情報の誤登録」「スタッフ間の情報共有漏れによる患者対応の遅れ」などです。
こうした非効率な業務プロセスは、患者の待ち時間を不必要に長くし、不満やクレームの原因となります。同時に、スタッフの業務負荷を増大させ、疲弊させる一因にもなりかねません。医療サービスの質を維持・向上させるためにも患者情報を正確かつ効率的に一元管理する仕組み(CRM)の導入が急務といえます。
医療向けCRMとは? 電子カルテとの違い
CRM(Customer Relationship Management)とは、日本語で「顧客関係管理」と訳されます。一般的には、顧客情報や対応履歴を一元管理し、顧客との良好な関係を築くためのマネジメント手法や、それを支援するITシステムを指します。
医療機関におけるCRMは、この概念を患者・医療サービスに最適化させたものと位置付けます。患者の基本情報、予約履歴、問い合わせ内容、さらにはアレルギーや過去の受診状況といった情報を管理し、患者一人ひとりへのきめ細やかな対応を実現するために活用されます。
この1ページでまず理解!CRMの主な機能、メリット/デメリット、選定ポイント|人気・定番・おすすめの製品をチェック
電子カルテやレセコンとの明確な違い
医療現場にはすでに「電子カルテ」や「レセコン(レセプトコンピュータ)」が導入されていることも多いでしょう。CRMとの違いが分かりにくいかもしれません。それぞれの役割は明確に異なります。
- 電子カルテ(診療録): 医師法などに基づき、「診療」に関する情報(症状、診断、処方、検査結果など)を記録・管理するシステムです。
- レセコン(レセプトコンピュータ): 「診療報酬」の計算(レセプト作成)と請求業務を主目的とするシステムです。
- 医療向けCRM: 主に「患者との関係性」に焦点を当てます。予約管理、来院促進(リマインド)、患者からの問い合わせ管理、満足度調査など、「診療行為」以外の患者接点を管理し、サービス向上と業務効率化を目指します。
理想的なのは、CRMが電子カルテやレセコンと連携し、情報が自動で同期される状態です。これにより患者情報が分断されることなく、病院運営の全体最適化が可能になります。
医療機関がCRMを導入する6つのメリット
医療機関がCRMを導入することで、患者、スタッフ、そして経営の三者にとって多くのメリットが期待できます。具体的なメリットは以下の6点です。
- 患者情報の一元管理による業務効率化を実現する
- 予約・受付業務の自動化で「待ち時間」を短縮できる
- 患者に合わせた最適な情報提供で満足度を高める
- データ分析による診療の質向上と経営改善を図る
- 患者満足度を可視化し、リピート(再来院)を促進する
- 地域医療機関とのスムーズな連携基盤を構築する
患者情報の一元管理による業務効率化を実現する
患者の氏名や連絡先、保険証情報といった基本情報から、予約履歴、問い合わせ内容、アレルギー情報などまでをCRMで一元管理できます。
これまで紙や複数のExcelファイルで管理していた情報が集約されることで、受付スタッフや看護師が患者情報を探す手間が大幅に削減されます。
電話応対時にも、患者名や電話番号から瞬時に情報を呼び出し、スムーズな対応が可能です。また、スタッフ間の「言った、言わない」といった情報共有の漏れを防ぎ、業務の標準化にも貢献します。
予約・受付業務の自動化で「待ち時間」を短縮できる
多くの医療向けCRMは、Web予約システムや自動リマインド機能(メール、SMS、LINEなど)を備えています。
これまで電話応対に割かれていたスタッフの工数を削減できるだけでなく、Webならば24時間365日予約を受け付けられるため、患者の利便性も格段に向上します。
また予約前日に自動リマインドする機能は、患者の「うっかり忘れ/無断キャンセル」を防ぐ効果も期待できます。結果として、予約枠の平準化と待合室の混雑緩和につながります。
患者に合わせた最適な情報提供で満足度を高める
CRMに蓄積された患者データ(年齢、性別、既往歴、受診履歴など)を活用し、患者のセグメント別に適切な情報を配信できます。
例えば、「特定の疾患を持つ患者群に、関連する新しい治療法の情報やセミナーを案内する」「定期検診の時期が近い患者に受診を勧奨する」といった活用が可能です。
画一的な情報発信ではなく、患者一人ひとりの状況に寄り添ったコミュニケーションを行うことで、病院への信頼感(ロイヤリティ)を高められます。
データ分析による診療の質向上と経営改善を図る
CRMに蓄積されたデータを分析することで、さらなる病院経営や診療の質向上に役立てられます。例えば、来院患者の属性(年齢、地域、疾患)、時間帯別の混雑状況、キャンセル率などを可視化するといった活用シーンがあります。
蓄積されるデータによって、「どの地域の患者が多いか」「どの時間帯にスタッフを厚く配置すべきか」「どのような情報発信が再来院につながっているか」といったヒント/知見を得られます。勘や経験だけに頼った運営ではなく、データに基づいた客観的な経営判断が可能になります。
患者満足度を可視化し、リピート(再来院)を促進する
CRMは患者との関係性を長期的に管理することに優れています。例えば、診療後のアンケート(満足度調査)を自動で送信・集計する機能や、誕生日や記念日に合わせたメッセージを送る機能を持つ製品もあります。
患者からのフィードバック(声)を収集・分析することで、サービスの改善点を具体的に把握することも可能となるでしょう。
定期的なコミュニケーションを通じて患者との接点を持ち続けることで、病院を「かかりつけ医」として継続的に利用してもらう(リピート率を高める)ことにもつながります。
地域医療機関とのスムーズな連携基盤を構築する
一部の医療特化型CRMは、地域医療連携室の業務を支援する機能も備えます。地域の他の病院やクリニック、介護施設などとの間で、患者の紹介・逆紹介の情報を管理・共有できます。
これにより患者の転院や紹介時の情報引き継ぎがスムーズになり、地域全体での医療の連続性を担保・強化する取り組みへとつながります。特に地域医療連携室の業務効率化は、病院経営における重要な課題の一つだと思います。CRMがその解決に貢献します。
医療向けCRMの主な機能
医療機関向けCRMは、汎用CRMの機能に加え、医療現場特有の業務を支援する機能を搭載しています。主な機能と導入に向けた検討ポイントは以下の通りです。
患者情報管理機能
患者の氏名や連絡先、保険証情報といった基本情報から、予約履歴、問い合わせ内容、アレルギー情報までをCRMで一元管理します。
診療の効率化はもちろん、患者への個別対応の精度向上も期待できます。昨今は「マイナンバーカードの保険証利用」を想定した連携機能も強く求められるでしょう。
予約受付と管理・リマインド機能
24時間受付可能なWeb予約フォームの設置、空き状況のリアルタイム表示、予約台帳の一元管理を行います。
また、予約前日などにメールやSMS、LINEを通じて患者に自動でリマインド通知を送る機能も重要です。これにより、電話応対の工数削減と予約の無断キャンセル防止に貢献します。
データ分析・レポーティング機能
来院患者の属性、時間帯別の混雑状況、キャンセル率などを可視化・分析します。
外部システム連携機能(電子カルテ・レセコン)
医療向けCRMを選定する上で非常に重要な機能です。すでに導入されている電子カルテやレセコンとCRMを連携させることで、患者情報(氏名、保険証番号など)の二重入力などを防ぎます。
例えば、CRMの予約情報が電子カルテに自動で反映されたり、電子カルテ側の患者情報がCRMに同期されたりすることで、受付業務も劇的に効率化されることが期待できます。
コミュニケーション機能(メール・SMS配信)
年齢層や疾患、受診履歴などに基づいて患者をセグメント(分類)し、一斉または個別に情報を配信する機能です。定期検診の案内、インフルエンザ予防接種のお知らせ、休診日の通知などに活用できます。患者との継続的な接点を保ち、再来院を促します。
失敗しない医療向けCRMの選定ポイント5つ
医療向けCRMの導入で失敗しないためには、自院の課題や規模に合った製品を選ぶことが不可欠です。特に以下の5つのポイントを確認しましょう。
1. 導入目的(課題)に合った機能が備わっているか
まず、「なぜCRMを導入するのか」という目的を明確にします。
例えば、「予約の電話応対業務を削減したい」が最優先であれば、Web予約や自動リマインド機能が充実していることが必須です。「患者の再来院率を高めたい」のであれば、データ分析機能やセグメント配信機能が重要になります。「地域医療連携室の業務を効率化したい」なら、紹介・逆紹介の管理機能が優れている製品を選ぶ必要があるでしょう。
なお、「全部入り」などとうたうシステム、「著名」な製品、「業者が勧めてきたもの」が最適とは限りません。“自院”の最も解決したい課題は何かを定義し、その要件を満たす製品を見定めることが成功への一歩です。
2. 強固なセキュリティ体制(3省2ガイドラインに準拠している)か
医療向けCRMの選定において、セキュリティは最も重要なポイントです。患者の氏名、病歴、連絡先といった「要配慮個人情報」を取り扱うため、情報漏えいは絶対に許されません。
基準となるのが、厚生労働省・経済産業省・総務省が策定した「3省2ガイドライン」です。これは医療機関やシステム事業者が順守すべきセキュリティ基準を定めたもので、具体的には、厚生労働省による「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」および、経済産業省と総務省による「医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン」を参照します。
導入を検討するCRMが、このガイドラインに準拠しているか、あるいは同等の強固なセキュリティ対策(データの暗号化、アクセス制御、二要素認証、ISMS認証の取得など)を講じているかを必ず確認してください。
参考:厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版」(令和5年5月)
参考:経済産業省「医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン」(令和7年3月改定)
3. 電子カルテやレセコンと連携できるか
多くの病院・クリニックでは、すでに電子カルテやレセコンが稼働しています。CRMがこれらの既存システムと連携できなければ、患者情報を二重に登録する手間が発生し、かえって業務が非効率になります。
選定においては製品ベンダーへ、例えば「どのメーカーの電子カルテ・レセコンと連携実績があるか」「API連携が可能か」などを問い合わせます。スムーズなデータ連携が実現できれば、受付から診療、会計までの一連の流れがシームレスになり、業務効率は飛躍的に向上します。
4. 現場のスタッフが直感的に操作できるか
高機能なシステムであっても、現場の医師、看護師、受付スタッフが使いこなせなければ意味がありません。特に医療現場は多忙であり、ITリテラシーもスタッフによってさまざまです。
「画面が見やすいか」「マニュアルを見なくても直感的に操作できるか」「スマートフォンやタブレット端末からも操作できるか」といったユーザビリティ(使いやすさ)は重要です。無料トライアルやデモンストレーションを活用し、実際に操作するスタッフ自身が確認することをおすすめします。
5. 導入・運用コストとサポート体制は見合っているか
クラウド型CRMの料金体系は、初期費用に加え、月額利用料(アカウント数や患者データ数に応じた課金)が発生するサブスクリプション型が主流です。
その価格については、単純な価格の安さだけで選ぶのではなく、「自院の規模(患者数)で利用した場合の総コスト」と「得られるメリット(業務効率化や患者満足度向上)」を比較し、コストパフォーマンスとして判断することを勧めます。
導入後のサポート体制も重要です。「医療業界の業務フロー」を理解した担当者によるサポートが受けられるか、トラブル発生時の対応時間はどうなっているかなど、運用面も考慮して選定していきましょう。
おすすめ初めてのSaaS導入ガイド まずはここから始めよう! 製品探しから利用開始まで6つのステップを徹底解説
【比較】医療機関向けを含むCRMおすすめ製品8選
ここでは参考として、医療機関への導入に適すると推定されるCRM、あるいはカスタマイズ可/万能型のCRMをピックアップして紹介します(製品名 abcあいうえお順/2025年11月時点)。地域医療連携に特化した製品から、汎用性が高くクリニックの患者管理にも利用できる製品まで特徴はさまざまです。自院の目的と要件に合う製品を比較検討する材料となれば幸いです。
このほかにもおすすめの製品があります。搭載機能や特徴、評価/口コミ数などで絞り込み/並べかえができる「おすすめCRM製品一覧&検索&比較コーナー」をぜひお試しください。またITセレクトでは、IT製品・サービス選定に詳しい専門スタッフに聞ける「ITセレクトのコンシェルジュ相談サービス(無料)」も用意しています。こちらもぜひご活用ください!
\ITセレクトおすすめCRM製品の資料を一括ダウンロード(無料)/




























