
銀行や保険、証券などの金融機関が顧客との信頼関係を深め、効率的にサービスを提供するには、CRM(Customer Relationship Management/顧客管理システム)の導入が重要です。金融業界では、顧客情報の一元管理や営業活動の強化だけでなく、厳しいセキュリティ要件や法令、ガイドラインへの対応も欠かせません。本記事では、銀行・金融業界向けCRMの特徴、導入メリット、押さえるべき要件と選び方、導入を進める手順までを整理して解説します。
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目次
銀行・金融業向けのCRMとは?
銀行や金融機関において、顧客との信頼関係の構築は非常に大切です。顧客は極めて重要な資産や個人情報を預けるため、金融サービスにはさらなる安心、信頼、正確といった要素が求められます。
そのため、顧客の個人情報や取引履歴を適切に管理し、適切なタイミングで適切なサービスを提供する体制が極めて重要になります。加えて、顧客の属性情報、資産状況、交渉記録なども含めて「顧客単位」で情報を見渡せる状態を作ると、提案の質や対応スピードを上げやすくなります。
銀行・金融業界に向けたCRMの要件
金融業界には、他の業界とは異なる独自の要件が求められます。特に複雑な顧客データを管理するため、CRMには以下のような機能が求められます。
- 顧客情報の統合的な管理
- 高度なセキュリティ体制
- 管理データの厳密な記録
金融機関では、誰がどの情報にアクセスし、何を提案し、どのように対応したかまで説明できることが重要になります。運用面まで含めて要件を整理しておくと、導入後の手戻りが減らせます。
顧客情報の統合的な管理
金融機関が取り扱う顧客情報は、膨大かつ複雑であり、顧客の資産情報、取引履歴、リスク評価などを含みます。これらのデータを統合的に管理することが不可欠です。これにより、どの担当者でも一貫したサービスが提供でき、顧客対応がスムーズになります。預金、融資、保険、証券など業態や部門ごとに情報が分かれやすい場合は、名寄せルールを含めて「どこを正とするか」を決めておくこともポイントです。
高度なセキュリティ体制
金融業は顧客の資産と個人情報を扱う事業です。他業界・一般的な事業より高度なセキュリティ体制を確保するのは必然となります。例えば、顧客データの暗号化、アクセス管理、情報漏洩防止など、厳格なセキュリティ機能が組み込まれたシステムと運用体制が求められます。この観点なしに顧客の信頼を得ることはできないでしょう。さらに、外部委託先やクラウド利用を前提にしたリスク管理、監査に耐えるログの保全なども、導入前から確認しておきたい観点です。
取引データの記録
上記を踏まえた上で、システムには顧客との接点を強化し、より信頼関係を密にする戦略を支援する機能が求められます。例えば顧客の問い合わせ履歴や過去の取引データを活用することで、個別に最適な提案やサポートを行う、などです。CRMで管理するデータを軸に、より深化し、正確な顧客管理・対応体制で戦略化できるようになるでしょう。「いつ・誰が・何をしたか」を後から説明できる状態にしておくと、コンプライアンス面でも運用しやすくなります。
CRMを活用した顧客との関係強化
CRMは顧客のニーズを的確に把握し、個別対応を強化するために重要なツールです。顧客ごとに資産状況やライフステージは異なりますので、顧客一人ひとりに沿った提案やサポートが必要になります。これは「パーソナライズ」と呼ばれます。CRMを活用することで、顧客一人ひとりの属性や過去の取引履歴、その他蓄積するデータに基づいて、顧客一人ひとりのニーズに沿ってサービスを提供できるようになります。
このことは顧客目線に立つと、「いろいろあります。さぁどうぞ、好きなのを選んでください」と言われるか、「(自分のために、自分に適するよう)考えて、厳選してこれがおすすめです」と言われるかの違いになります。例えば住宅ローンのような極めて重要な決めごとながら不安や不明点も多い状況の中で決める必要があるとき、この先相談・依頼をしたくなるのはやはり後者ではないでしょうか。
またCRMは、上記を継続することで長期的な顧客関係の構築にも寄与します。適切なタイミングでのフォローアップや、顧客の嗜好に合った提案を続けることで、顧客は金融機関に対して強い信頼感を抱き、長期的な取引を継続しやすくなります。
デジタル化とCRMの役割
金融業界でもデジタルトランスフォーメーション(DX)が進み、中でもCRMの役割はますます重要になっています。従来の対面中心の取引から、インターネットバンキングやモバイルアプリを活用した非対面でのサービス提供が増えています。こうしたデジタルチャネルを効果的に活用するためには、CRMが欠かせません。
CRMは、デジタルチャネルでの顧客対応を最適化します。たとえば、インターネットバンキングやモバイルアプリとの連携により、顧客の取引履歴や問い合わせ内容をリアルタイムで把握し、迅速かつ的確な対応が可能になります。これにより、顧客はいつでもどこでも自分に合ったサービスを受けられるようになり、利便性が向上します。さらに、対面、Web、コールセンターなどの接点情報をつなげられると、チャネルが変わっても一貫した対応がしやすくなります。
【重要】金融機関がCRM導入で外せない「法令・ガイドライン」対応
金融機関がCRMを選定する際は、便利な機能より先に「守り」の要件を確認する必要があります。特にクラウド型CRMを含めて検討する場合、外部委託先の管理や監査対応まで含めて、事前に確認範囲を決めておくことが大切です。
金融庁ガイドラインとサイバーセキュリティ
金融分野では、サイバーセキュリティを前提にした運用が求められます。導入するCRMベンダーが外部委託先として十分なセキュリティ水準を満たしているか、インシデント発生時の連絡体制や復旧対応がどうなっているかは、導入前に確認しておきたいポイントです。
3省2ガイドライン・FISC安全対策基準への対応
特にクラウド型CRMを採用する場合、FISC(金融情報システムセンター)の「金融機関等コンピュータシステムの安全対策基準」への対応状況が重要な判断材料になります。ベンダーによっては、FISC安全対策基準への対応状況確認シートを公開している場合もあります。こうした資料の提出がスムーズなベンダーは、金融業界での導入を想定した説明や運用設計が進んでいる可能性があります。
参考:公益財団法人金融情報システムセンター(FISC)「「金融機関等におけるクラウド導入・運用に関する解説書(試行版)」公表のお知らせ(2021年5月28日)」
個人情報保護と監査ログの保全
個人情報保護の観点では、利用目的の管理や同意取得の記録を含めて、説明責任を果たせる運用が必要になります。あわせて、不正アクセスや内部不正に備えるために、「いつ・誰が・どの顧客データにアクセスしたか」が追える監査ログを、必要な期間保全できるかも確認しておくと安心です。
銀行・金融業向けCRMの導入がもたらすメリット
銀行や金融機関において、CRMの導入は業務の効率化だけでなく、顧客満足度の向上や営業活動の強化にも役立ちます。ここでは、CRMを導入することで得られる具体的なメリットについて詳しく解説します。
- 顧客情報の一元管理により業務効率を改善できる
- 営業活動を効率化し、成約率を向上できる
- 顧客満足度を向上させ、ロイヤリティを高められる
- コールセンター業務を効率化できる
- データの可視化で経営戦略を支援できる
顧客情報の一元管理により業務効率を改善できる
CRMを導入することで、顧客情報を一元管理し、全ての部門で情報を共有することが可能になります。これにより、部門間でのコミュニケーションが円滑になり、各担当者が同じ顧客情報に基づいて対応できるようになります。その結果、顧客対応が迅速になり、対応ミスや手戻りを削減できます。また、業務の効率化により、コスト削減も期待できます。従来は個別に管理していたデータを一元化することで、作業負担が軽減され、全体の業務フローがスムーズになります。
営業活動を効率化し、成約率を向上できる
CRMを活用することで、顧客データに基づいたターゲティングが可能になります。データ分析により、見込みの高い顧客を抽出し、ピンポイントでアプローチすることで、無駄な営業活動を減らすことができます。また、CRMには営業支援機能が含まれており、成約のタイミングを把握したり、顧客との接触履歴を管理することで、商談の進行をスムーズにすることができます。さらに、見込み客を育成し、定期的な追客を自動化する機能を使うことで、継続的に営業機会を創出できるようになります。例えば「定期預金が満期を迎える顧客」「ライフイベントがあった顧客」など、アプローチのきっかけを見つけやすくなる点も、CRM活用の分かりやすい効果です。
顧客満足度を向上させ、ロイヤリティを高められる
CRMを導入することで、過去の取引履歴や顧客とのやり取りを元に、個別対応が可能になります。顧客ごとのニーズに合わせた商品やサービスの提案ができ、満足度が向上します。特に金融業界では、顧客のライフステージに応じた提案が重要です。CRMを使うことで、顧客に適したタイミングで最適なサービスを提供し、長期的な信頼関係を築くことができ、顧客の離反を防止できます。
おすすめロイヤリティとは何のこと? 考え方と実践方法を分かりやすく解説
コールセンター業務を効率化できる
コールセンター業務においても、CRMの導入は大きなメリットをもたらします。顧客からの問い合わせ履歴を一元管理することで、オペレーターは過去のやり取りをすぐに把握でき、スムーズな対応が可能になります。これにより、対応品質が均一化し、顧客がどのオペレーターに当たっても同じ水準のサポートを受けられるようになります。さらに、クレーム対応が迅速に行えるようになるため、顧客満足度の向上につながります。あわせて、担当部署への引き継ぎも短時間で行いやすくなります。
データの可視化で経営戦略を支援できる
CRMは、蓄積された顧客データを活用し、経営戦略の判断材料を提供します。具体的には、顧客の取引動向やニーズをリアルタイムで分析することで、どの顧客にどのサービスを提案すべきか、営業の進捗状況を把握することができます。これにより、マーケティング戦略の見直しや新たな施策を打ち出すためのデータが得られ、より的確な経営判断が可能になります。
失敗しない金融CRM導入の7ステップ
金融機関のシステム導入は、要件の抜け漏れが手戻りにつながりやすい領域です。次のステップで進めると、検討の順番が整理しやすくなります。
- 目的・KPIの策定:課題が営業効率化なのか、コンプライアンス強化なのかを明確にし、評価指標(例:クロスセル率、事務時間削減など)を決めます。
- 対象業務の決定:全社一斉ではなく、法人営業部やコールセンターなど範囲を絞って始めるとリスクを抑えられます。
- データ棚卸しと統合ルール策定:勘定系、名刺管理、手元のExcelなど散在するデータを整理し、名寄せルールも含めて統合方針を決めます。
- セキュリティ・権限要件の定義:誰がどの情報を見られるべきか、監査ログ要件は何かを具体化します。
- 製品選定とリスク評価:第三者リスク評価を含め、ベンダーの説明責任や提出資料の整備状況も確認します。
- PoC(概念実証)と段階導入:一部拠点やチームで試し、使用感や運用課題を洗い出してから展開します。
- 定着化施策:入力負荷を下げる工夫を行い、「入力すると現場が助かる」流れを作ります。
銀行・金融向けCRMを選ぶ際のポイント
CRMを導入する際には、銀行や金融機関特有の要件を満たすシステムを選ぶことが不可欠です。特にセキュリティ、操作性、システム連携など、導入後の実用性に直結する要素を慎重に考慮する必要があります。ここでは、CRM選びの際に重要となるポイントを解説します。
セキュリティ対策とデータ所在
金融業界においては、顧客の資産や個人情報を厳重に守るための高度なセキュリティが求められます。CRMを選ぶ際には、データ暗号化、アクセス制御、監視機能などが備わっているか確認することが重要です。あわせて、データの保管場所(データレジデンシー)がどこか、災害時のバックアップやDR(復旧)体制がどうなっているかも確認しておくと、BCPの観点でも検討しやすくなります。 また、金融機関は法令遵守が不可欠であり、システムがその基準を満たしていることも大切です。たとえば、金融庁のガイドラインに沿ったセキュリティ対策が施されているかをチェックしましょう。さらに、内部統制を強化するためのアクセス管理や監査機能も必須です。FISC安全対策基準への対応状況確認シートなど、必要資料を提示できるかどうかも、比較時の材料になります。
操作性と使いやすさ
ITシステムは導入するだけでなく、関係するスタッフ全員が使いこなしてこそ効果を発揮します。CRMも、どのITシステムも、操作や仕組みが複雑すぎるのでは現場が使いこなせません。そのための基礎要素として、直感的な操作ができるか、画面レイアウトが分かりやすいかといった自社のニーズと現場目線での確認は必須となるでしょう。
また、運用と活用を想定した学習/習得のトレーニングメニューが用意されているか、カスタマイズや拡張の範囲や容易性は選定時に考慮しておくべきポイントです。特に製品のサポート体制は重要です。トラブルが発生した際に迅速な対応が受けられるか、どう対応してくれるかといった観点も確認しておきましょう。止まることが許されない業務がある場合は、サポート窓口の対応時間や障害時の連絡フローまで確認しておくと安心です。
既存システムとの連携と拡張性
CRMは他の業務システムと連携して初めて真価を発揮します。銀行や金融機関は、既存の勘定系システムやERP、会計システムとの連携が求められることも多いことでしょう。データを一元化することは、データの二重入力など不確定要素を省くことで確実性を高め、また業務の効率化に寄与します。
このためCRMには多くの場合、他システムの拡張性、連携性・柔軟性の高さも求められます。将来的な機能追加や新たな業務プロセスの導入に対応できるように、CRMが柔軟にカスタマイズ可能かどうか確認することが肝要です。システムの更新やバージョンアップが容易にできることも長期的な視点で重要となるでしょう。CTI(電話システム)やWebサイト、対面用端末など、顧客接点の連携先も洗い出しておくと検討が進めやすくなります。
費用対効果の評価
CRM導入には初期費用とランニングコストがかかります。導入前に、これらのコストがどの程度かかるのかをしっかり把握し、費用対効果を評価することが重要です。たとえば、初期投資だけでなく、システムの維持管理費やサポート費用、アップデート費用も考慮する必要があります。また、CRMを導入することで、業務の効率化や顧客満足度の向上による収益増加がどの程度見込めるか、事前にシミュレーションしておくとよいでしょう。長期的な投資として、CRMが持続的に価値を提供できるかも見極めるポイントです。
ベンダーの信頼性とサポート体制
CRMのベンダー選びも非常に重要です。導入実績が豊富で、金融業界に特化した知見を持つベンダーを選ぶことが望ましいです。特に、導入から運用までのサポート体制が充実しているかは、導入後のトラブルを未然に防ぐためにも重視すべき点です。また、システム障害が発生した場合の対応速度や品質も確認する必要があります。導入後に継続的にサポートが受けられるか、定期的なアップデートが提供されるかも選定基準となります。監査対応や提出資料の整備状況など、金融機関の説明責任に寄り添える体制かどうかも確認しておくと比較がしやすくなります。
オンプレミス、クラウド、ハイブリッドクラウドの違い
| インフラ | 特徴 |
| オンプレミス型 | 自社サーバーでシステムを管理するため、データ制御を社内で実施できる。 |
| クラウド型 | 保守管理をベンダーが行うため、運用負荷が比較的軽い。 |
| ハイブリッドクラウド | オンプレミス型とクラウド型の中間。セキュリティ・コストに併せた柔軟な対応が可能。 |
銀行や金融機関がCRMを導入する際、どのインフラを選択するかは重要な決定事項です。まず、オンプレミス型は自社サーバーでシステムを管理する方法で、完全に内部でデータを制御できるため、特に高度なセキュリティが求められる金融機関に適しています。一方、クラウド型は導入コストを抑え、システムの柔軟性や拡張性が高いことが特長です。クラウド型では、運用管理がベンダーに委託されるため、自社での保守管理が不要となり、運用負荷が軽減されます。
さらに、ハイブリッドクラウドは、オンプレミスとクラウドのメリットを組み合わせた形態です。顧客の機密データは自社サーバーで管理し、それ以外の業務はクラウドで効率化するなど、用途に応じた柔軟な運用が可能です。これにより、セキュリティとコストのバランスを保ちながら、自社に合わせたカスタマイズも実現できます。
金融業界向けCRMのタイプと代表的な選択肢
CRMは製品ごとに得意分野が異なります。自社の目的や業務範囲に合わせて、どのタイプが合うか整理しておくと選定が進めやすくなります。
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1. 業界特化型CRM(銀行・保険・証券向け)
金融特有のデータモデル(世帯、契約、法規制対応など)が標準で組み込まれているタイプです。
- Salesforce Financial Services Cloud:銀行、保険、資産運用など業態別のデータモデルを持ち、顧客を中心とした関係性を可視化しやすい構成です。
- eセールスマネージャー(金融版) など:日本の商習慣に合わせた運用を想定し、管理面を整えやすい選択肢です。
2. 汎用型+金融向けセキュリティ対応
一般的なSFA/CRMをベースに、厳しいセキュリティ基準や運用要件に合わせてカスタマイズするタイプです。
- Mazrica Sales:国産SFAとして現場での使いやすさを重視した製品です。













