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「単一フォーマットでなければ参入できない」とWarner特集:次世代DVDへの助走(2/3 ページ)

» 2004年02月12日 20時38分 公開
[本田雅一,ITmedia]

HDTVの世帯普及率10%がターニングポイント

 「HDコンテンツの制作は、市場環境が整ったら必ず行う。既存のDVDと次世代光ディスクを用いたHDコンテンツは、全く別のものだからだ。HDコンテンツを楽しめる環境、即ちHDTVの世帯普及率が10%を超える時が、HDコンテンツをリリースするタイミングだと考えている。多くの製品は、世帯普及率で10%を過ぎると普及速度は急カーブを描いて上昇する。あとは時間の問題だ」(ラディロフ氏)(なお、統計の種類によっては、米国のHDTV世帯普及率はすでに10%を超えている。このインタビューでは、フルHDフォーマットを再生可能なテレビという意味で話が進んでいた)。

 では、その時期は何時なのだろうか? 「われわれのHDコンテンツビジネスは、2006年後半に始めることになるだろう。それまでには、十分なビジネスの下地ができると考えている。Blu-ray陣営は2005年末からのHDコンテンツ出荷を明言しているが、単に再生環境が普及する時期の読みが1年違うというだけだろう」とラディロフ氏。

 一方、新規事業開発を担当する横井氏は、HDコンテンツ出荷のための必要条件として、フォーマットが統一されることを強調した。

「VHSとβのように、市場に有力なフォーマットが2つあるうちはやりたくない。ダブルスタンダードは、市場を大きく制限してしまう。もう過ちは繰り返したくない」と横井氏。横井氏は、かつて松下電器が買収していたUniversal Studiosに役員として出向。松下電器がUniversalを売却後、当時会長だったウォーレン氏に誘われワーナーに移籍した経緯がある。それだけに、ダブルスタンダードの苦しみは十分に理解している。

 単に高品質化するだけでは、エンドユーザーの購買に繋がらないのでは? との問いにも「オーディオメディアの場合、シングルフォーマット化に失敗したことが普及を阻害した。しかしHDTVという受け皿が普及し、シングルフォーマットが実現できれば、HDコンテンツの普及は可能性として高いと思う」(ラディロフ氏)。

DVD Forum重視の姿勢を強く見せるワーナー

 「いずれかのフォーマットを後押しすることもない。まだ判断できる材料が十分にはないし、DVD Forumでもフォーマットの統一に関して何ら話し合われてはいない。フォーマット統一の議論はフォーラムで行われるべきだ」と横井氏。現時点でHD DVD寄りと思われているワーナーだが、中立の姿勢は崩さない。しかし、DVD Forum重視という姿勢に本音が見え隠れするともいえるかもしれない。

photo Warner Home Videoで事業開発担当副社長を務める横井昭氏

 たとえば、中国政府が後押しする次世代ビデオディスクとして注目を集めたEVD。これは、中国政府が中心になり、台湾の巨大研究開発組織ITRI(Industrial Technology Research Institute:工業技術研究院)が物理的な記録技術や、アプリケーションフォーマット、コーデックなどを開発しているといわれている。ITRIは、半官半民の組織で、今や中国政府と台湾府は、研究開発の面で一体となって世界を狙っているといえるだろう。

 そのEVDに関して横井氏は「今、知られているEVDは米半導体企業が率先してリークした話だが、仕様が大幅に変更され、今はもっと進化したものになっている。われわれは中国が作るメディアフォーマットについて、特にセキュリティ面で信用していない面も残っているため、ハリウッドがEVDにコミットすることは現時点ではない。『DVD Forumなら、議論のテーブルには着ける』と彼らに提案したところ、DVD ForumにEVDの改良版を持ち込むと話していた。おそらくDVD Forumで議題になるだろう」と話した。こうしたDVD Forum重視の姿勢は一貫している。

 言い換えれば、DVD Forumで議論されない規格に対しては否定的とも捉えることができる。

 そうした印象を伝えると横井氏は「われわれが現時点で“HD DVDのサポーター”ということはない。これまでの経緯やDVD Forumのこともあるが、HDコンテンツの販売に関する判断は、あくまでもビジネスとしての判断になる。2006年末の段階でも、統一フォーマットになっていないならば、われわれは参入することが“できない”。ウィッシュリスト(HACリスト)は、優先順位の高い順番に列挙している。もっとも優先度が高いのは、統一フォーマットになることだ」と繰り返し、「できればBD陣営もDVD Forumに規格提案し、その中で話し合ってほしい。現在のままでは細かな仕様が公開されておらず、われわれコンテンツ屋も詳しいスペックを知らない状態だ」とコメントした。

 HDのセルビデオ市場拡大ペースに関しても、保守的な考えを示す。ラディロフ氏は、DVDが登場した後もVHSソフトが6年間伸び続けたことを引き合いに出しながら「HDコンテンツが登場したからといって、市場が大きく変化するわけではない。たとえばわれわれの製品の場合、DVDの売り上げがVHSを超えたのは2003年のことだった。次世代光ディスクでもそれは同じだろう。2008年頃、25%を少し下回る程度の家庭が、HDコンテンツを再生可能な機器を持つようになると予測している。将来、次世代光ディスクがDVDを上回るとしても、かなり先のことだと思う」と話した。

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