マンガやアニメ、ゲームなどの分野で、「日本発」のコンテンツに対する国際的な評価が高いことはよく知られた話だ。その一方、コンテンツ業界における絶対的な人材不足、教育プログラムの欠如も以前から指摘されている。大学などの高等教育機関では、ごく一部の例外を除き、コンテンツに携わる人材の育成が十分に行われているとは言い難いのが現状だ。
そうした中、東京大学大学院情報学環と新領域創成科学研究科による「東大コンテンツ創造科学産学連携プログラム」や、デジタルハリウッドによる「デジタルハリウッド大学院」など、デジタルコンテンツに携わる人材育成を大学で行おうという取り組みが始まっている。
国際大学グローバル・コミュニケーションセンター主催のセミナー、「大学はコンテンツ人材を育成できるか」で、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授の濱野保樹氏と、デジタルハリウッド大学院学長・主任教授の杉山知之氏が、それぞれの進めるプロジェクトについて語った。
「結論から言えば、大学で教えることはできない」。濱野氏の発言は冒頭から衝撃的なものだった。同氏はフィルムスクールとして長い歴史を持つ南カリフォルニア大学(USC)の学部長のコメントも引用しながら、コンテンツに携わる人材育成のうち、大学でできるのはせいぜい実務経験に近い教育、OJTのシミュレーション程度であり、すべてを教えることは不可能であるという。
しかし、と濱野氏の言葉は続く。「強烈な選抜試験を科し、才能を持った人間を集めれば、優秀な人材を育成することができる」。日本の宝塚歌劇団、中国の北京電影学院のように、だ。ただ、これにも条件がある。適切な働き口、つまり受け皿を確保できるならばという条件だ。
濱野氏が示したデータによると、米国では映像系大学の講師など映像関係の職種ということだけで60万人の雇用が存在している。また、フランスではアンテルミッタン・デュ・スペクタクル(非常勤芸能従事労働者)という制度があり、活動実績があれば国民保険や年金のほか、失業保険を受けることも可能になっているという。
「日本ではそういった受け皿がなく、大家と呼ばれるような人でも、本業では食えずアルバイトをしている」
濱野氏は日本の現状をこう嘆く。
「コンテンツ創造科学産学連携教育プログラム」は今年秋から開始される予定の産学連携教育プログラムで、東大大学院生を中心に学部生、社会人も対象として毎年数十人の規模で行われる。
同プログラムが育成の目標とする人材は、コンテンツ産業のリーダー(プロデューサー)となりうる人材。専門技能者ともいえるクリエーターの育成を目指さない点で、これまでのコンテンツ関連人材育成プログラムとは一線を画す。
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