時速350キロで駆け抜けるフォーミュラカーレース。接近戦による追い抜き、相次ぐクラッシュなど、サーキットでのレース観戦は迫力があって楽しい。ただ現地では「いま、誰が1位なのか?」「日本人選手は何位なのか?」といった肝心な情報が分からなくなってしまうことも多い。
これまでは“場内の大型ビジョンやFMラジオ中継を聴きながらレースを観る”という観戦スタイルが主流だったが、いつでもどこでも自分の欲しい情報だけを取得できるわけではなく、決して便利といえる状況ではなかった。
4月17日、栃木県のツインリンクもてぎで開催された米国最高峰のカーレース「INDY JAPAN」では、観客が持ち込んだPCやPDAにIEEE 802.11b/g対応の無線LAN経由でリアルタイムにレース映像や情報を配信する「Pit Live TV powered by Intel」を提供。会場にいながらにして欲しい情報を入手できる環境が無料で用意された。
優勝を決め、ガッツポーズで歓声に応えるダン・ウェルドン選手(写真提供・ホンダ)
まずはPCとPDAを手元に置き、レースを観戦してみた。無線LANアクセスポイントはすぐに見つかり、特に面倒な設定することなく接続が可能だ(場合によってはSSIDを「pitlivetv」WEPを「なし」に設定する必要がある)。URLに「http://pitlivetv」と打ち込めばトップ画面が起動する。
PC向けにはWindows Media形式とOKI Player方式の2方式で映像を配信。それぞれレース映像配信と順位表の2つの映像が提供されていた。PCの画面に2方式のプレイヤーを起動すると、ひとつはテレビで見るようなレースの中継映像、もうひとつは順位表が表示される。レース映像は約400Kbps、順位表は100Kbpsで配信されるが、indows Mediaでは10秒程度の遅延が起こり、実際のレースとのタイムラグが出ていた。一方のOKI方式では、遅延が2〜3秒程度に収まっており、十分実用レベルだ。
OKI Playerが受信したデータを瞬時にデコード処理できるのに対し、Windows Mediaでは、その処理に時間がかかるために遅延が発生するという。その半面、Windows Mediaはパケットロスがあっても、ブロックノイズを出しながら映像として動きを見せるという強みがあるが、OKI playerは、パケットロス発生時には静止画として止まってしまうという弱点がある。「このあたりはどちらが良いかと一概には言えないのため、今後も両方式で映像配信をしていく予定」(コンテンツ担当のニッポン放送プロジェクト町田正典氏)。
PDA向けには、Pocket PCとLinuxザウルス向けの配信が行われ、筆者はザウルスで試してみたのだが、これが実に便利に使える。手にザウルスを持ち、ヘッドフォンで音声を聞きながら観戦できるだけでなく、トイレやお土産を買いに行く際にも、ザウルスを持っていけばレースの展開を把握できる。映像も比較的なめらかに再生され「リアルタイム配信」の名に恥じない実力だ。
なおザウルスについては、現行機種では再生ソフトがないため、独自の試作再生ソフトがインストールされた「SL-C860」と「SL-C760」を50台限定で貸し出していた。
Zaurusでは、かなり滑らかな映像が配信されており、実用性は高い |
ではPit Live TV powered by Intelが、どのようなシステムで情報配信を行ったのかを見てみよう。
今回の情報配信サービスでは、ツインリンクもてぎ内に設置された40カ所の無線LANアクセスポイントから、観客が持ち込んだPCやPDAにリアルタイムのレース映像や順位表を配信している(レース映像は約400Kbps、順位表は100Kbps)。
無線LAN基地局はCisco Aironet1200を使用(11gの11b/g互換モードで作動)。広大なサーキットをカバーするため、遠方のスタンドのアクセスポイントには、WIPAS(Wireless IP Access System)でデータを中継し、低コストにエリア展開を行っている。
WIPASは26GHz帯の準ミリ波を使用したワイヤレスIPアクセスシステムで、無線伝送速度は80Mbps(実際に使用できるのは50Mbps)を誇る。最大700メートルの送信距離で無線アクセスポイントを設置できるため、サーキットのような広大な敷地でも、ケーブルを敷設することなく、大規模な無線LANエリアを構築できるのがメリット。「WIPASを大規模なイベントの中継系として使うのは日本では初めての試み」(ツインリンクもてぎ)という。
通信方式はマルチキャスト方式だ。全端末が同じ帯域を共有することで周波数効率を上げ、収容する端末の数に制限がかからないようにしている(通常の通信方式はユニキャスト方式と呼ばれ、各端末が個別に帯域を占有するため、接続端末数が制限される)。
配信方式、エリア設計ともに、数々の新しい試みが行われた「Pit Live TV powered by Intel」。今回は、インテルを協賛パートナーに迎え、同社の「Itanium2プロセッサ」などを搭載した日本ヒューレットパッカードのシステムサーバを使用し、コンテンツ制作をニッポン放送プロジェクトが担当した。NTTブロードバンドプラットフォームがネットワークを、沖電気工業がシステムの一部を担当するという複数の企業が手を組み実現したかたちだ。
「ゴルフなどの屋外スポーツにおける新しい観戦スタイルを提案できる。ビジネスモデルの構築を視野に入れた問い合わせも多い」(ツインリンクもてぎ営業課の本間公康氏)と、サーキット以外でもお目見えする可能性はありそうだ。大規模なイベントを盛り上げるモバイル機器の利用方法、無線LANの新たな展開としての試金石となるだろう。
今年、ツインリンクもてぎでは、フォーミュラ・ニッポンや全日本GT選手権など7つのレースで「Pit Live TV powered by Intel」を提供する。ぜひ、モバイル機器を持ち込んで新しいレース観戦スタイルを体験してもらいたい。
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