既報の通り、セイコーエプソンは5月18日、同社独自のインクジェットプロセスを用いた40インチのフルカラー有機ELディスプレイ(OLED)を開発したと発表した。「フルカラータイプの有機ELディスプレイでは、世界最大サイズ」(同社)となる。
大画面のフルカラー有機ELディスプレイでは、台湾Chi Mei Optelectronics(CMO)と日本アイ・ビー・エム(IBM)が出資するインターナショナル・ディスプレイ・テクノロジー(IDTech)が、2003年3月に20インチのフルカラー有機ELディスプレイを発表したほか、ソニーが2003年のCESや同年5月のSID(Society for Information Display)で12インチパネルを4枚組み合わせた24インチタイプを参考出展していた。
今回セイコーエプソンが試作した有機ELパネルは、これらを大幅に上回る対角40インチという大画面を実現。駆動方式は、動画レスポンスがよく高精細が可能な「アクティブマトリックス方式」を採用。解像度はWXGA(1280×768ピクセル、38ppi)で、26万色のフルカラー表示を可能にした。ソニーと同様に、20インチパネル4枚を組み合わせて大画面を作り出している。
同社OLED技術開発本部長の飯野聖一氏は有機ELディスプレイの特徴について「一言でいうと“キレイ”。究極の感動ディスプレイと表現する人もいる。薄型軽量化が可能で、今回の製品もパネル厚さは2.1ミリと非常に薄い。そして500〜1000対1という高コントラストのものが簡単にできる。自発光なので視野角も広い。応答速度も十数〜数マイクロ秒と高速で、キレの良い映像を楽しめる」と述べ、これら有機ELのメリットを最大限に生かせるアプリケーションはテレビであることを強調する。
ただし、テレビとして展開する場合、“大型化”は避けて通れない。
次世代ディスプレイの象徴として注目を集めることの多い有機ELディスプレイだが、なかなか実用化されない“永遠の次世代技術”でもあった。
これまで、単色やマルチカラータイプがカーAV製品向けディスプレイや携帯電話のサブディスプレイとして採用されるケースはあったものの、TFT液晶など従来のディスプレイ製品と比べて動画対応や高精細化など画質面で競合できるアクティブマトリックス型フルカラータイプは、三洋電機とEastman Kodakが昨年3月に出荷したデジタルカメラ向けが初めての商用出荷だった(2003年3月3日の記事参照)
この三洋/Kodak製品を含めて、実用化、もしくはそれに近いとされているものはほとんどが有機ELの発光材料に“低分子タイプ”を使ったもの。各社の技術開発も、この低分子タイプが先行していた。
しかし水分や高エネルギー粒子に弱いという低分子材料の特性から、低分子タイプはシャドーマスクによる真空蒸着方式でしか作れないなど、製造プロセスでの制約があった。この真空蒸着の製造装置は億単位と非常に高価なのに加え、製造時のシャドーマスクの移動はマイクロメートル単位の精度が必要となり大型化した場合に歩留まりが極端に悪くなる。また成膜時のムラも大型になるほど顕著。「有機ELはモバイル向けディスプレイ」といわれてきた理由の1つがこれだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR