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Flashは表現を変えるか?ITは、いま──表現論

» 2004年05月26日 13時34分 公開
[中嶋嘉祐,ITmedia]

 Flashが普及し、動きを使った表現の敷居が低くなっている。Flash制作には手間や費用がさほどかからず、ある程度の知識さえあれば、個人レベルで賄えるという利点がある。

 社会風刺や2次創作、ミュージッククリップなど、さまざまな表現に使われるFlash。インターネット上では、日々、続々と押し寄せる新たなFlashに触れることができる。

 Flashは、表現者としての個人、あるいはコンテンツ業界に変革をもたらしているのだろうか? ITとコンテンツ、2つの業界に詳しい東京大学教授の浜野保樹氏に話を聞いた。

Flashの課題

 「Flashはインターネットでの配信を想定した表現方法。ファイルサイズは軽めで、人に見せやすい」と浜野氏は話す。これまでの表現方法では、個人がつくった作品を見せようにも、映画でいうところの配給・興行の過程に障壁が多く、その機会が限られていた。ネットを介して多くの人に作品を配信できるのは、Flashの長所だと同氏。

 一方で浜野氏は、「技術が逆に表現を規制してしまう側面もある」と主張する。Flashに限らず、表現の枠組みを分かりやすく示すツールがあれば、表現者は増える。しかし、無意識のうちにその枠組みの中にまとまってしまい、想像力を閉じ込めることになるというのだ。「表現者ありき。キューブリックは逆に、映像のために技術を生み出した」。

 コンテンツを取り巻くオンラインビジネスを考えると、米国ではAppleをはじめとする企業が、音楽配信サービスを立ち上げ、一定の成果を収めている(4月30日の記事参照)。米国の映像業界では、Flashが認知され始めた1990年代末にTime Warnerなどが中心となり、Flashを使ったアニメーション配信サービスを立ち上げた。しかし利用は広まらず、2年ほどで大半が事業を中止したという。

 「古くからコンピュータを知ってる人間にとって、Flashで動く絵には驚きがあった。だが、子供にとっては絵が動くのは当たり前。テレビはスイッチを入れるだけで見られる。簡便で画質もいい。テレビを上回る媒体にならなければ、これまでの映像サービスを受けていた人たちは満足しない」(浜野氏)。

 ビジネスとして成り立たせるには、既存の媒体にはないメリットを提示しなくてはいけない。映像配信について言うと、購入する恥ずかしさから免れるポルノの分野でしか有料化は難しいのではないかと浜野氏は語る。

photo 浜野保樹氏(東京大学大学院新領域創成科学研究科教授)

表現者の課題

 また浜野氏は、Flash制作者としての個人が抱える問題にも焦点を当てる。「映像表現の基礎を知らない。良い映像をつくるには、実写の光と影の関係について知るべき。キューブリックが優れた映像作家になったのは、カメラマンとして経験を積み、それを良く知っていたからだ」。

 昨今ではデジタルコンテンツ制作を教える専門学校が増えているが、こうした基礎をおざなりにする傾向があると同氏は批判。「映像表現にも、映画などで守られている決まりがある。知らずに破れば、人間の位置関係などに込められた意味合いが分からなくなり、支離滅裂になる。逆に決まりを知った上で破れば、意図的に不思議な関係を生み出せるのだ」と説明する。

 「結局のところ、優れた表現者が重要。3Dメガネを使って飛び出す映像を見せたParamountの社長は『人間はおもしろければ便器でもかぶる』と話した。Flash制作者にそれだけの力があるかが、今後問われることになると思う」。

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