実写の人物の画像の背景にCGを合成するというのは、いまでは多く見られるようになった。現在は青バックで人物を撮影して青のところに画像を重ねる「クロマキー」が使われているのだけど、つなぎ目がめだったり、光線が不自然だったりするという現象が見られる(いろいろ努力はしているのだけど、それでも)。これをもっと自然に見せようというものだ。
これは二つの技術からなる。
ひとつは、クロマキーに変わる人物切り抜き技術。人物のうしろに、青バックのかわりに再帰反射シートのスクリーンを置くのだ。再帰反射っていうのは、どっちの方向から来た光も、来た方向に180度跳ね返すというもの。道路標識やスニーカーの反射シールに使われているあれだ。
人物を撮影するときに、カメラの側から赤外線ライトで照らす。赤外線は再帰反射シートにあたってそのまま帰って来る。でも人物の部分はきれいに影として抜ける。これを赤外線カメラで撮れば、人物シルエット画像が得られるというわけ。あとは、普通のカメラで撮った人物画像をこのシルエットでマスクすればいいわけだ。
クロマキーは原理上、バックの色(たいていは青)と同じ色の服を着ることはできない。でもこの再帰反射シートなら色は関係ないから、何色を着たっていい。また、実験した様子では、クロマキーよりもきれいに抜けるんだそうだ。
もうひとつは、光線の問題。これはすごい。人物のまわりをすっぽりスクリーンで覆って(人物はテントの中に入るような感じになる)、そのスクリーンに最終的に背景となるCG画像を外から投影する。そして、その画像がそのまま照明になるのだ。映画館で隣の席の人の顔がスクリーンに照らされているっていうのと一緒。
背景が赤っぽければ照明も赤っぽくなる。CG画像の左側が明るければ照明も左側が明るくなる。CG画像の上のほうが青い空で下のほうが緑の芝生なら、照明も上のほうが青くて下のほうが緑になる。本当にそれでいいのかってつっこみたくなったのだけど、それでちゃんと自然に見える。別に背景はCGである必要はない。別に撮ってきた実写画像だってかまわない。
また、撮られている人物からすれば、自分のまわりに背景が映っているわけだから、演技がやりやすくなる。博物館の実写画像と重ねて、「壺を指してください」なんていうデモをやっていた*1。
立体画像についてはインテグラル立体テレビという、わたしもお気に入りの技術があるのだけど、今回取りあげるのはそっちじゃない。
ハイビジョンカメラの前に、ミラーを使ったアダプタ*2をつけて、左右二つに分かれた画像を撮影する。この画像を液晶ディスプレイに表示して、ステレオスコープでのぞけば立体画像の出来上がり。ステレオスコープは見やすさのためにあるもので、その気になれば裸眼立体視だってできる。ハイビジョンの画面は16:9だから、横2分割でそれぞれが8:9とかなり正方形だ。見やすい。
おもいっきり昔ながらの立体映像である。これは実は眼科や脳外科の手術のために開発されたものなのだ。この用途に使うためには、長時間使っても疲れないということが重要だ。このためには、このような昔ながらが一番むいているというわけだ(だから、ほんとはステレオスコープは必須)。
白色LEDをつかってリングライトやキャスターライト(番組のキャスターの人の下のほうに置いて、顎や鼻の下の影を薄くするためのもの)を作るというもの。去年は、「まだ実際の現場では使われていないんです」だったのが、いよいよ使われるようになりだしたんだそうだ。ということは実用化ということで、安くしなくてはいけない。去年は、メーカーに協力してもらって色温度や明るさを揃えた選別品のLEDを使ったのだけど、今年は普通のLEDをたくさん買ってきて自分で選別ということに戻ってしまった。
わたしが居合わせたときに、ちょうどLEDメーカーの人が展示を見ていて担当者さんと意気投合してた。このあたりから、新しい技術が出てきたらおもしろいんだけど、どうかな。
*1被写体の周囲に球状に光源を置いて、その光源それぞれの色や明るさを変えることで、自由な照明条件を作り出すというシステムは、SFCの稲蔭先生のところで見たことがある。これは非常に細かい制御ができるけれど、制御はだれか(人間なりコンピュータなり)がしなくちゃいけない。一方このNHKのは、背景画像をそのまま光源にしてしまう。細かい制御はいらない(できない)。力業だけど、このシンプルさは魅力だ
*2「ペンタックスのステレオアダプタ持っているんですけど、あれとにたようなものですか?」と聞いたら、にっこりして「その通りです」と答えてくれた。ただし、こっちはズームレンズに合わせて視差を変えるしくみを内蔵している。
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