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» 2004年06月28日 11時58分 公開

若い世代が作り出した、新しい“ヤマハの音”〜「DSP-Z9」(1/3 ページ)

従来のハイエンド機から一気にレンジを引き上げ、税別50万円という価格で投入されたヤマハ「DSP-Z9」。その背景にあったのは、今後10年の技術基盤を“コスト度外視”で作ろうという、トップシェアベンダーならではの大胆なプロジェクト運営だった。若いチームで挑んだハイエンド機種開発の経緯から、同社のAVアンプに対する取り組みを探る。

[本田雅一,ITmedia]

 “AVアンプといえばヤマハ”と言われるほど、映画を見るためのAVアンプや、DVDプレーヤーやアンプ、スピーカーがセットになった、いわゆるホームシアターセットのカテゴリで、ヤマハは確固たる地位を築いている。特にミドルレンジから下に向けての価格帯では、長年にわたって築いてきたブランドと豊富なラインナップにより、大きな存在感を放っており、AVアンプ市場における国内シェアは約40%だ。

 そのヤマハが、それまでの最高級機だった「DSP-AZ1」(税別30万円)から一気に価格レンジを引き上げ、税込み52万5000円(税別50万円)の国産ハイエンドAVアンプ市場に「DSP-Z9」を昨年末に発売したのは記憶に新しい。パイオニアが「VSA-AX10」で示したハイエンドAVアンプに、シェアナンバーワンのヤマハが挑む形となったZ9は、発売当初、入手難な状況が続くなど市場からの注目を浴びた。

photo 「DSP-Z9」。総合定格出力1290ワット(170ワット×7+50ワット×2)のアンプを搭載。重量は30キロ

 ヤマハのオーディオ事業の中核を担っているのは、もっと気軽に導入できるミドルレンジ以下の製品群だ。しかし、ハイエンド製品での評価、技術は、いずれ中軸の製品にも波及する。

 若いチームで挑んだハイエンド機種開発の背景から、同社のAVアンプに対する取り組みを探ってみた。

若いチームによる“新しいこと”への取り組み

 Z9の開発は、全体の統括をAV・IT事業本部技術開発本部HT商品開発部アンプ・レシーバーグループ担当技師の藤田心一氏が行ったが、実際の開発作業は同じHT商品開発部の前垣宏親主任が進めた。30台前半の前垣氏がアンプ部の設計と音作りを担当し、音場測定機能を開発したAV・IT商品開発室要素開発グループ主任の熊谷邦洋氏、DSP音場プログラム開発を担当した商品開発統括部ソフトウェア開発部HTグループ主任の大橋紀幸氏と連携しながら、Z9の開発を進めたという。3人とも実に若く、製品への情熱を強く感じる人物だ。

photo Z9は若い3人の技術者が中心となって開発した。左から、音場測定機能を担当したAV・IT商品開発室要素開発グループの熊谷邦洋主任、技術開発本部HT商品開発部の前垣宏親主任、DSP音場プログラム開発を担当した商品開発統括部ソフトウェア開発部HTグループの大橋紀幸主任

 もっとも、若いとは言え、前垣氏は8年間以上、AVアンプの設計に取り組んできたベテランでもある。

「入社当初からAVアンプの設計、アナログ回路、ビデオ回路、オーディオ回路とさまざまな部分で経験を積みました。しかし、もともとは音楽の制作現場に興味があり、プロフェッショナルオーディオをやりたかったんです。ミキシングコンソールや、PA用パワーアンプを作りたいと思ってヤマハに入ったんです」と前垣氏。

 ヤマハはサラウンドプロセッサ黎明期から製品開発に取り組み、今年は14年目を迎えるという。その間、ヤマハのAVアンプを支えてきたのは、前垣氏の先輩にあたる岩松氏だった。岩松氏は11年間、ヤマハAVアンプの音を作り、その後ピュアオーディオ部門におけるデジタルアンプの開発に移籍する。

「ずっとハイエンド製品の担当を続け、ここ3年ほどは前任を引き継いで、音作り、音決めをやっています。音作りというと、知らない人から見るとオカルトチックなところもあり、部品はもちろんネジひとつでも音が変わってしまう。もちろん、回路設計からの音作りへのアプローチもあり、前作のDSP-AZ1から製品に組み込まれています」(前垣氏)。

 その前垣氏が意識したのは、自分が作りたかったプロオーディオの現場で好まれる音を、家庭用AVアンプに持ち込むことだった。

 一方、アナログアンプ開発、DSPプログラム開発の経験を経たあと、2年半前にヤマハの門を叩いた熊谷氏は、Z9から導入された自動音場補正機能「YPAO」(Yamaha Parametric Room Acoustic Optimizer)の開発を担当。自動音場補正機能は、パイオニアが2001年に発表した「VSA-AX10」が初めて実装した機能だが、ヤマハとしてもずっと以前から研究開発を行ってきた分野だという。

photo 自動音場補正機能「YPAO」の画面。付属の高性能測定用マイクをリスニングポイントに設置し、ボタンを押すだけで、スピーカー結線の確認からスピーカーサイズ、スピーカー距離、波数特性、チャンネル間レベルの5項目を自動的に測定&最適化する

「音場補正に関しては、ヤマハの中でずっと研究開発を行い蓄積したものが、入社時に既に大量にあったんです。他社がわれわれに先駆けて製品化に踏み切ったことで“後追い機能”という宿命を負ってしまいましたが、決して他社がやったからわれわれも開発した、といった、即席の技術ではありません。ずっと蓄積してきた研究開発データをもとに、実際の機能として実装し、顧客の環境で実証試験を行いながら完成させることが、私の仕事でした」(熊谷氏)。

photo 「音場補正は、決して他社がやったからわれわれも開発した、という即席の技術ではありません」と熊谷氏

 前垣氏の1年後に入社した大橋氏は、デジタル音響処理の専門家だ。AV機器の開発を希望し、DSP処理一筋で開発を続けてきた。どのような音場を作るか、その基本デザインや「Cinema DSP」(ヤマハ独自の映画用音場プログラム)、HiFi-DSP(音楽をマルチスピーカーで楽しむために開発したヤマハのDSPプログラム)のプログラミングを担当。以前はアンプ部の音決めを行っていた野呂氏が音場プログラムの味付けを決めていたが、AZ1からは実際にプログラミングをする担当者、つまり大橋氏が“味付け”を行っているそうだ。

 前垣氏が担当したアンプ部の味付け、大橋氏が担当したDSPプログラムの味付け。いずれもAZ1から、新しい時代へと向かったわけだ。実際、AZ1は上品で繊細だが、線が細い印象だったヤマハAVアンプに、腰の据わった、迫力ある音をもたらした。ある意味、AZ1は新しい世代の開発者が作る新ヤマハAVアンプに向けた布石だったとも言える。

 こうして若いチームへと引き継がれたヤマハのハイエンドAVアンプの開発は、すべてを作り直したZ9の開発へと繋がっていく。そこでのテーマは、AVアンプのプラットフォームでピュアオーディオの世界をユーザーに見せることだった。

これからの10年を支える基盤に

 前垣氏はAZ1において、新しい音を作り出すことを目指したようだ。「ここ数年、映画の音作りが変化しています。以前は音の移動感が目立つサラウンド録音が多かったのですが、現在は空間を表現する手法としてサラウンドを使うものが多くなっています。そこで、空間表現を重視した音へのリニューアルをAZ1で行っています」(前垣氏)。

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