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» 2004年06月28日 11時58分 公開

若い世代が作り出した、新しい“ヤマハの音”〜「DSP-Z9」(3/3 ページ)

[本田雅一,ITmedia]
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「本格的にはZ9からDSPプログラムの方向性を変えました。これまでは、DSPによる信号処理効果を、誰でもハッキリと感じてもらえるようにプログラムしていました。しかし、Z9はもっとさりげない効果を狙っています。一言で言えば、スッキリ、きれい系でまとめた、といったところでしょうか」(前垣氏)。

 Z9で使われている独自開発の音場処理用DSP「YSS930-S」は、AZ1で使われていたものの6倍の能力を持つ。この余裕を半分は音質へと振り、48kHzでの信号処理を2倍の96kHzに高めて音質を改善。3倍の初期反射音が処理可能で、トータル6倍の処理となる。

photo DSP基板

 ヤマハは独自の音場効果プログラムを、映画用のCinema DSP、音楽用のHi-Fi DSPと別々の名前で呼んでいるが、いずれも同じDSPで処理されるものだ。以前は風呂場のように、直接の反射音ばかりが目立ち、効果は理解できるものの不自然さが伴っていたが、新しいDSPプログラムはいずれもさりげない。CDの音を常時Hi-Fi DSPで再生しても違和感をさして感じないハズだ。Cinema DSPもHi-Fiモードばかりが目立って良質だった過去のプログラムとは異なり、あらゆるプログラムがそれぞれの音場を自然に描き出す。

 ヤマハの音場プログラムは、もともと音に包まれる感覚に優れていたが、Z9のそれは他社比較でも頭ひとつ抜け出した強い印象を受ける。ヤマハAVアンプの強みは、ここに収斂されると言いたいほどだ。

「DSP音場は、社内の開発センターと協力しデータ測定/収集/評価にあたっています。測定は早稲田大学音響研究室が開発した近接4点収音法を用います。ここで測定した初期反射音や後部残響音のデータを元にして、DSPプログラムを開発するわけです。また、ヤマハにはプロオーディオ向けなどほかの音響部門もありますから、事業部を越えてさまざまなノウハウが共有される環境にありますから、それらを活用してDSPプログラムを練り込める点は大きなメリットですね」(大橋氏)。

photo 「事業部を越えたノウハウを使ってDSPプログラムを練り込める点は大きなメリット」と大橋氏

「プログラムを完成させる上で、非常に多くの音楽ホール、シアターの測定データを所有している点もわれわれの強みです。国内ではヤマハが音響設計を担当したホールもありますし、YAMAHAのブランドで詳細な音響データ測定を行わせてもらいやすいといった面もあるでしょう」(藤田氏)。

 単に高性能なDSPを搭載するだけならば、半導体コストの問題でしかない。最終的な製品力向上に繋げるには、サラウンド処理を行うプロセッサに長年取り組み、蓄積してきたプログラミングと音場測定のノウハウ、それにそれらを活かすための実測データが必要だ。

 Z9では強力なDSPもさることながら、そうしたヤマハ自身の蓄積と大橋氏が目指した“新しい、さりげないDSP”効果がマッチし、高い評価へと繋がっているようだ。

“サラウンドアンプの老舗”であること

 このほか、音場補正機能を実装した熊谷氏から伺ったことなど、話の種は尽きない(YPAOに関しては、実際にわが家で使ってみた結果などを交え、別途紹介する)が、ここで話をまとめる方向へと向かいたい。

 インタビューを通して強く感じたのは、サラウンド処理黎明期から長い間取り組んできたノウハウの蓄積がうまく活かされ、そして世代交代とともにそれをさらなる高みへと昇華させようという強い意志だ。

 かつてスピーカーのマトリックス接続など、アナログのテクニックでサラウンドを実現した時期があったが、そうした時代を超え、デジタル処理でサラウンドサウンドを実現できる時代になった。そして、ドルビープロロジックなど映画産業で培われたサラウンドのテクニックが音源ソースに加わるようになり、ソースのデジタル化で一気にサラウンドの質が高まっていく。

 その中で常に国内ベンダーの先頭に立って取り組んできたのはヤマハだった。現在の国内シェア40%という数字は、過去の蓄積に対する市場の正直な反応だろう。ヤマハのAVアンプならばサラウンド用として安心、という心理が働くだろうと想像できるほどに、彼らの存在は大きい。

 しかし、AZ1まで10年間、同じ基礎技術をもとに開発をしてきたと彼ら自身が言うように、ヤマハのAVアンプに対する評価が固まり過ぎていた感もある。Z9はヤマハ自らが、その殻を破ろうと長い時間と予算をかけて踏み出した、新しい世代の第1歩と言える。

 全く新しい第1歩。しかし、それは過去の蓄積を土台に再構築したものだ。“サラウンドアンプの老舗”であることは、従来顧客の期待を裏切ることが出来ない制約を生み出す。一方で、その看板があるからこそ、全く新しいことに挑戦ができ、また(早稲田大学との協業などに見られるように)社外も含めた広がりも出てくる。

 開発陣との世代交代の中で、老舗としての蓄積、看板を守りながら、若い世代へのスイッチを成し遂げたヤマハの伝統は、さらに10年は続いていくのかもしれない。

 大橋氏は「DSPに関して、今回さまざまなアプローチで検討、見直しました。結果ばかりに目が行きがちですが、その過程で得た新たなノウハウ、手法が重要だと感じています。DSP処理能力に制約の多い下位モデルでも、最適化する事によってZ9の持つDSP効果を盛り込めるようになるでしょう」と話す。

「それは音質など、言葉で表せない部分も同じです。 地道にノウハウとしてヤマハの中に伝承されています。下位モデルではコストの制約もあり、スグにZ9の品質が下位モデルに展開できないかもしれません。しかし、各グレードの中で、Z9の音は活かされていくと考えています」と前垣氏は締めくくった。

photo DSP部、映像系信号部、プリアンプ部、左右のパワーアンプといったパーツは完全分離構造とし、内部には独立した各ブロックが3層構造&左右対称にレイアウトされている(写真はブラックモデル)
photo DSP-Z9カスタム仕様の大型トロイダル電源トランス(右)と大容量ブロックケミコン
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