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» 2004年06月28日 11時58分 公開

若い世代が作り出した、新しい“ヤマハの音”〜「DSP-Z9」(2/3 ページ)

[本田雅一,ITmedia]

 またAZ1は繊細で上品だが、どこか線の細い印象があったヤマハのオーディオ機器の印象を変えた機種でもあった。失礼を承知で言えば、個人的には、ヤマハアンプの腰の弱さのようなものがあまり好きになれない時期もあった。

「ヤマハに限らず、各社のAVアンプには固定化されたイメージがありました。実際の音とは別に、そうした定評によって製品の性格まで決められてしまう。私はPAからオーディオ世界に入りましたから、元気の良い低域がある方がいい。ヤマハは繊細できれいで、他社は迫力があるという定評を聞くたび、(それは褒め言葉かもしれないが)もっと派手で元気の良い、迫力のある音を作りたかったんです」(前垣氏)。

photo 「もっと派手で元気の良い、迫力のある音を作りたかったんです」(前垣氏)

 ところが、Z9ではまた上品な音へ、言い換えれば“ヤマハ”ブランドらしい音へと回帰している。しかし、それは以前の腰の弱さを感じさせるものではない。しっかりとした芯は残っている。

「AZ1は(映画の)サラウンドでの迫力を出すことを目指しました。しかし、Z9ではピュアオーディオのアンプとしても楽しんでもらえることを意識し、あえてPA的な要素を押さえ込んで開発しています」(前垣氏)。

 では“サラウンド”系のAZ1と、“ピュアオーディオ”系のZ9は、どのような味付けの違いを意識しているのか。「AZ1は、スピーカーとリスナーの間に音像が浮かび上がる感じですが、Z9はスピーカーの奥にあるステージで演奏が展開するイメージです。AZ1がポップス/ロックなら、Z9はクラシックに合うというイメージを私は持っています」と前垣氏。

 そのコダワリは、Z9を純粋なアナログオーディオアンプとして使う「Pure Direct」モードなどにも現れている。Pure Directモードに関しては、別途掲載するレビューで詳しくお伝えするが、高品質なCD/SACDプレーヤーなどのアナログ音声出力を、デジタル処理なしにアナログ回路だけで増幅するピュアオーディオアンプと同じ動作をするモードである。

 一方、AZ1で盛り込んだ前垣氏のポリシーは、ヤマハの伝統的なサウンドと融合する形で“Z9の音”へと繋がっているようだ。従来のヤマハファンの期待を裏切らず、その上で新しい音へとチャレンジした結果が、上品さと芯の強さの両立だったのかもしれない。Z9はAZ1とは全く異なる意味で、ヤマハの新境地を拓いた製品だ。

 そこに至る鍵となったのが、今後10年の技術基盤をコスト度外視で作ってしまおうという、トップシェアベンダーならではの大胆なプロジェクト運営だったようだ。開発に携わった三人は「コストと時間は度外視し、製品としての質を高めることだに注力すればいいと言われ、自由な発想で開発を進められた」と口を揃える。

「これまで30万円ぐらいだったわれわれのハイエンド製品が、今回は一気に50万円。ライバルたちも似たような値付けですが、狙って価格を付けたわけではありません。AZ1までの製品は、約10年前に作られた『AVX2000』という製品にまでさかのぼり、それを基礎として受け継ぎながら機能や味付けを買えて現在にまで至ってきました。Z9はその過去10年をリセットし、従来のノウハウを元に新たに1から作り直そうと企画されたプロジェクトです。言い換えれば、ヤマハAVアンプの今後10年を支えるプラットフォームを目指したわけです」(藤田氏)。

photo 開発の全体を統括したAV・IT事業本部技術開発本部HT商品開発部アンプ・レシーバーグループ担当技師の藤田心一氏

 製品が商品として成り立つためには、価格設定、市場予測、製造原価などのターゲットを定め、そこから自ずと機能や使える部品、開発にかけられる期間などが決まってくるものだ。しかし製造原価も、そして開発期間も度外視して良いプロジェクトから生まれたのがZ9だったというのは興味深い。

「要望を積み上げ、顧客に満足できるレベルを達成した、やり切ったと思えるところにまで高めた上での50万円ですが、これが75万円分のコストになっていれば、おそらく75万円で売っていたでしょう」(前垣氏)。

ガラリと変わったDSPプログラム

 Z9に初めて触れた時、僕個人として一番驚いた点は、ヤマハ製AVアンプとは思えない、さりげないDSPの音場効果プログラムだった。前述したように、AZ1からZ9に至る中で、アンプモジュールの音作りは紆余曲折しながら、現在の前垣サウンドに至った。その一方、DSPプログラムも、いやDSPプログラムがもっとも大きく変わっている点かもしれない。

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