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“最高の映画用アンプ”だけじゃないヤマハ「DSP-Z9」レビュー(1/3 ページ)

» 2004年07月01日 03時45分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 先日掲載したヤマハAVアンプ開発者へのインタビューと連動して、同社のハイエンドAVアンプ「DSP-Z9」をお借りした。彼らの言う“ヤマハAVアンプの今後10年を支えるプラットフォーム”が、どのような形で製品に反映されているのか。筆者なりに咀嚼してみることにした。

photo ヤマハのハイエンドAVアンプ「DSP-Z9」

 比較対象としては、このクラスのAVアンプをカテゴリとして定着させたパイオニアの「VSA-AX10Ai」、前回紹介したソニーの「TA-DA9000ES」などが挙げられるだろう。幸い、これらの製品を並べ、同時に比較することもできた。

 もっとも、昨年末に登場したDSP-Z9は、他製品との比較も含め、さまざまなAV専門誌でレビュー記事が掲載済みである。ここではカタログベースでの“Z9のウリ”や機能ではなく、筆者の感じたZ9についてインタビューの流れを追いながら率直な感想を主観的に記すことにしたい。

ヤマハらしい美しさ感じるオーディオ部

 DSP-Z9には、2チャンネル1系統、8チャンネル1系統のピュアオーディオ入力端子(アンバランスRCA端子)があり、「ピュアダイレクト」モードという動作モードに切り替えることで、これらのオーディオ信号を一切デジタルに変換せず、アナログアンプだけを通してスピーカーを駆動するモードが設けられている。

photo 背面端子群(クリックで拡大)
photo ピュアダイレクト機能をオンにしたところ。同機能には、「2chピュアダイレクトモード」「マルチchピュアダイレクトモード」の2つがあり、両モード共通で内部接点は信頼性の高いリレーのみとし、信号伝送も低ノイズ、低歪のバランス方式を採用した。オンにすると、ビデオ回路やデコーダー動作など全てのDSP回路が停止し、またディスプレイのFL管も消灯する

 ヤマハでZ9の開発を担当した前垣氏は「Z9はピュアオーディオの品質も目指した」と述べているが、その一端が上記の機能である。ピュアダイレクトモードでは、アンプ内のビデオ回路やデジタル回路をオフにすることでノイズ混入を防ぎ、アナログインテグレーテッドアンプとほぼ同じ構成で動作する。

 またSACDやDVD-Audioといった高品質のオーディオフォーマットに対応し、iLINK端子経由でこれらの高品質デジタル信号を受信。アンプ内のD/Aコンバータでアナログに変換する機能も持つ。その際、ピュアダイレクトモードに設定してると、DSP処理やYPAOによる音場処理を省いて直接アナログに変換し、アンプ増幅するモードも備わっている。

 まずはソニー「SCD-XA777ES」のアナログ出力から視聴してみた。視聴環境はフロントスピーカーがソナスファベール「Grand Piano Home」、センタースピーカーに「Solo Home」、サラウンドスピーカーにリン「UNIK」を用いた。ピュアオーディオとしては中級レベルの構成だ。試聴に使ったSACDは、アナ・カラン「Blue Bossa」、カルロス・クライバー指揮「BEETHOVEN・SYMPHONY NOS.5 & 7」、スティング「Sacred Love」、マイケル・マクドナルド「Motown」、ヒラリー・ハーン「Bach : Violin Concertos」など、なるべく広い分野のマルチチャンネル録音ものを選んでいる。

 同一構成におけるDA9000ESが解像度の高さや透明感、中高域の抜けの良さを、AX10Aiが高解像度、力強さ、メリハリなどを感じさせるのに対して、Z9は柔らかい音場空間を作り上げる印象だ。他の2製品に比べると、やや音の立ち上がりの鋭さが失われる印象だが、滑らかでソフトな音場感が広がる。少々キツく感じる高域が混じったソースの音も、優しく聞こえてくる。

 たとえばオーケストラに関して言えば、やや迫力には欠ける印象を持つものの、楽器ごとの分解能は十分高く雑な印象がない。バイオリンや女性ボーカルも、聴きづらい中高域から高域にかけての歪感がなく、“耳に付くうるささ”がない印象だ。

 スティングの1枚には、マルチチャンネルでさまざまな方向から効果音が降ってくるような録音が行われた曲がある。各方向の定位感は他製品に一歩譲る印象だが、他製品で聴くと緊張感が続きやや疲れるのに対して、Z9はここでも刺激を最小限に抑え、スピーカーの奥に音場が広がる鳴り方をする。

 これらは“善し悪し”ではなく、製品として目指している方向が異なると考えた方が良さそうだ。Z9が腰の弱い、貧弱なアンプかというと、そうとも思えないからだ。マイケル・マクドナルドの「Motown」は、やや低域よりのチューニングで録音されているSACDだが、低域の分解能は決して悪くなく、しっかりとウーファーが動く。試聴に使ったスピーカーは、同クラスでは比較的アンプの駆動力に敏感に反応するタイプだが、今回使った程度のスピーカーであれば動かす力は持っているようだ。派手さや迫力ではなく、静かにリラックスしてきれいな音を堪能したい向きにはフィットするアンプだろう。

 筆者はヤマハのAVアンプを所有したことがないため、ヤマハのAVアンプ内での変化については印象を語ることができないが、かつてのオーディオブーム時に感じていたヤマハに対するブランドイメージをそのままに正常進化した音だと思う。そうした意味では「世代を超えて継承しているスペックには現れないものがある」という前垣氏のコメントを裏付ける結果とも言えよう。

 なお、SACD/DVD-AudioのiLINK接続再生も、パイオニア「DV-S969AVi」に接続して試した。DVD-Audioに関しては、iLINK接続にすることでやや解像度が向上する印象を持ったものの、SACDに関してはアナログ接続の方が良い印象を持った。また、iLINKケーブルの交換に、他製品よりも敏感に反応する。本機はiLINK時のフロー制御に対応していないそうだが、その点が影響しているのかもしれない。

DSP処理の介在を感じさせない自然さ

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