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アナログ停波、“認知度50%”でいいの?

» 2004年07月14日 22時55分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

 総務省が7月7日に公表した平成16年版「情報通信白書」によると、2011年の“アナログ停波”を知っている人は、全国で51.9%、三大広域圏では58.1%だったという。周知の通り、2003年12月に東京・名古屋・大阪の三大都市圏で地上デジタル放送が開始された。今後は順次放送エリアを拡大し、2006年末までには日本の大部分をカバー。これに伴い、2011年7月に現在のアナログ放送は終了する予定だ。

photo 出典:平成16年度「情報通信白書」

 白書では、「地上デジタルテレビジョン放送が開始されたことを76.5%が認知し、平成23年アナログ放送が終了することも約半数が認知しており、地上デジタルテレビジョン放送は国民に着実に認知されつつある」と評価している。

 ちょっと驚いた。危機感が感じられない。

 一方、調査結果は同じでも、異なる意見を提出している調査機関もある。矢野経済研究所では、2004年6月に、東京・名古屋・大阪の三大都市圏に居住している消費者305人に対してWebアンケート調査を実施。結果はやはり、平均50%の人がアナログ停波を知らなかった。

「およそ半数の人が、現在の放送が停止される時期を、はっきりとは認識していないということがわかった。特に女性、若年層について、地上デジタル全般に関する知識が不足している傾向にある」(同社)。

 同社は、各放送局やテレビメーカーの動向を踏まえ、全体としては「2011年の完全移行は可能」と結論付けているのだが、その中で懸念材料として挙げているのが認知度調査だ。「今後、これら知識が不足している人々に対して、数年の間に合意を得ていなければ、大きな混乱が起きる可能性もあるだろう」と指摘している。

 混乱が何を指すのかは容易に想像できる。一般的に、テレビの寿命は10年程度と言われている。しかし、このままでは一般消費者が10年間は使うつもりで購入したものが、ほんの数年後に、そのままでは使えなくなってしまう。画質の問題は別にしても、別売のチューナーが必須となり、一般消費者に追加投資を求めることになる。

寿命は延びる、期限は迫る

 “10年間”の論拠は、内閣府経済社会研究所が四半期ごとに実施している「消費動向調査」だ。同調査では、消費指数などの算出と同時に、一般世帯における家電製品などの買い替え状況を定期的に調査している。平成13年9月の調査では、カラーテレビの平均使用年数が「10年3カ月」と算出された。

 しかも、近年は平均使用年数が伸びる傾向にある。前年同月の調査結果は「9年11カ月」。1年間で4カ月間も長くなっているのだ。理由は推測の域を出ないが、製品の基本性能の向上にくわえ、雇用不安や所得低迷などの影響もあるだろう。なお、「買い替えの理由」は、「故障」が8割以上を占めており、「壊れるまで使い切る」傾向にあることも伺える。

 もう一つの懸念材料は「全体の普及スピードは総務省の目標設定より、やや後ろよりになる」(前述の矢野経済研究所の調査)と推定されている点だ。理由として挙げられているのは、受信機の価格設定。「受信機メーカーは、この機に乗じて高付加価値の薄型テレビにシフトしようと考えている。このため、戦略的に高価格帯を維持する方向性にあり、普及価格帯へのシフトがやや遅れていくと考えられる」。

 消費者アンケートの「デジタルとアナログの価格差がどの程度ならデジタル対応のテレビを購入しますか?」という質問では、もっとも多い解答が「3〜5万円未満」の31.5%。次いで「1〜3万円未満」の24.9%だった。「本格的に買い換えが始まるのは、その価格差が5万円を切るようなタイミングになると思われる。メーカーの価格設定の方針が、今後普及の道筋をつけるための、大きな要因になるのは間違いない」(矢野経済研究所)。


 BS/CSデジタル放送のように、必要な人だけが高付加価値テレビを購入すれば済むケースと違い、地上放送はすべての視聴者が対象となる“基幹放送”だ。既にデジタルテレビを購入した、あるいは検討しているような家庭なら問題はないが、このまま認知(YRIは“合意”と表現している)されずに期限を迎えたら、“壊れるまで使い切る”多くの家庭から反発を受けることは必至だろう。

 理想をいえば、アナログ停波の10年前にあたる2001年には周知徹底されていなければならなかったはず。少なくとも、2004年時点での50%は、満足できる数字ではない。

 地上デジタル放送が当たり前になった後、移行が「スムーズだった」と評価されるか、逆に「混乱を招いた」と酷評されるかーー。いずれにしても、その要因を作るのは、移行期である現在のアプローチだ。

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