今年に入って音楽配信サービスへの注目が急激に高まっている。配信サービス各社が事業拡大に力を注ぐ中、楽曲を提供するレーベル側はどのような考えを持っているのだろうか。
東芝EMI ニューメディアグループ副部長 山崎浩司氏は、NTTコミュニケーションズ主催のセミナーで、「音楽ファイルの違法配信は未だ止まっていない」と現状を説明しながら、「違法配信を撲滅するためには、合法的に音楽をネットで買える場所を、積極的にユーザーへ提供するべき」との考えを表明。音楽配信サービス事業拡大への期待を語った。
音楽配信サービスは4年ほど前にも注目を集めたが、今ひとつユーザーに浸透しないままで終わっている。その意味では今回は第2の波となるが、未だ揺籃期にあることは変わりない。ブロードバンドの普及は追い風の一つだが、音楽配信サービスが本格的にブレイクするためには、さらなる条件として何が必要になるのだろうか。
この点に関し山崎氏は、同社がレーベルとして具体的に取り組んでいる方策として、提供する楽曲数を増加させることと共に、小売価格を指定しないオープンプライスでサービス各社へ楽曲を提供していることを挙げた。
実は、このオープンプライスという方針は、日本の音楽業界の一般的な考え方とは必ずしも一致しないものだ。というのも、日本の音楽業界には再販制度が存在しており、音楽業界ではダウンロード購入したファイルも再販制度に準じるものと主張しているからだ。しかし、公正取引委員会では「音楽配信サービスは再販対象物ではない」という見解を出している。東芝EMIのオープンプライス提供は、むしろこの公取委の見解に沿ったものと言える。
実際、東芝EMIが提供している楽曲は、一部音楽配信サービスでは販売価格が異なる。例えば、宇多田ヒカルの「誰かの願いが叶うころ」はExcite Music Storeやlovemusic、Listenmusicでは270円だが、OCN MUSIC STOREでは260円だ。
山崎氏は「音楽を聴く手段が多様化しているのは間違いなく、(音楽CDの)売り上げ減は違法配信だけが原因ではない。これまでアプローチできていなかった部分への取り組みと考えている」と、音楽配信への積極的な取り組みは、市場の変化に対応する必然な流れであると述べる。
着メロ・着うたやCDレンタルなど、音楽配信サービスには競合相手も多い。そうした中で、東芝EMIは他レーベルに対しても、積極的に音楽配信サービスへ動き出すよう呼びかけているという。山崎氏によれば、各社の反応に温度差はあるものの、違法配信に対してなんらかの対抗措置が必要であるという点では一致しており、音楽配信についてはワーナーミュージックなどがより積極的な動きを見せているそうだ。
業界全体では日本レコード協会を中心に話し合いの場を設けているが、残念ながらまだ「権利保護についての基本スタンスを固めている段階」とのこと。音楽フォーマットや課金形式などビジネス展開を図る上で判断が必要になる事柄について、業界全体での統一規格を作るといった動きはまだまだこれからの話になるようだ。
ただし、山崎氏は「音楽配信サービスの充実には、業界全体でのバックグラウンド整備が必要」とも話しており、同社は扱う音源についてISRCコード(国際標準レコーディングコード)による管理を進めている。ISRCコードは日本レコード協会も推進を進める識別・管理方法で、97年以降の国内楽曲においては80%以上がISRCコードでの管理が可能となっている。
97年以前の国内楽曲や海外楽曲についてはISRCコードによる管理がなされていないが、日本レコード協会はISRCコードによる管理について積極的な取り組みを続けており、将来的にはISRCコードによって、山崎氏のいう“業界全体のバックグラウンド”が整う可能性がある。
野村総研の市場予測によれば、音楽配信サービスは2008年度で883億円にまで拡大するというが、その一方で300億円にとどまるという予測もある。ユーザーへの啓蒙・告知と併せて、レーベル同士がいかに連携して音楽配信サービスに取り組めるかが今後の課題になるだろう。
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