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海外製オンラインゲーム、“カルチャライズ”が成功の鍵に?

» 2004年07月26日 19時53分 公開
[中嶋嘉祐,ITmedia]

 海外製オンラインゲームを国内でヒットさせるには、“ローカライズ”ではなく“カルチャライズ”することが重要――。ガマニアデジタルエンターテインメントの浅井清バイスCOOは7月24日、ブロードバンド推進協議会オンラインゲーム専門部会(SIG-OG)研究会のパネルディスカッションでそう話した。

 研究会は2回目で(関連記事参照)、今回は「企業間の国際的なコラボレーションで実現するオンラインゲーム事業戦略 中国・台湾・日本における事例研究」がテーマ。ゲームメーカー関係者など約80人が参加し、浅井バイスCOOが台湾のオンラインゲーム事情について講演した。

鍵になるカルチャライズ

 ガマニア台湾本社は先日、米Sony Online Entertainment(SOE)のMMORPG「EverQuest 2」を日本を除くアジア全域で提供すると発表(日本はスクウェア・エニックス提供)。SOEとの提携には、人気タイトルの獲得という狙いがもちろんある。それに加え、ゲームコンテンツの翻訳だけでなく、キャラクターモジュールの変更、インタフェースの調整なども認められたことが大きな動機になったという(関連記事参照)。

 日本支社でも、日本人向けのカルチャライズを進めている。MMORPG「エターナルカオス」では、「日本のユーザーは家庭用ゲーム機向けソフトに慣れていて、サクサク進むのが好き」だとみて、レベルを上がりやすくするなど、簡単にプレイできるようゲームバランスを調整している。また「巨商伝」では、日本人好みのキャラクターグラフィックなどを作成してゲームに組み込んだという。

 巨商伝では基本料金を無料にしてゲーム用アイテム販売で稼ぐというビジネスモデルを採用。一般に、課金サービス移行後はユーザーが減るのが通例だが、巨商伝ではβサービス時7000人だったアクティブユーザーが、正式サービス移行後には1万人に増えた。有料アイテムの購入率も10−20%と予想を上回っているという。

photo 浅井清バイスCOO(ガマニアデジタルエンターテインメント)

 「いいタイトルだからといって必ず売れるわけではない」と浅井バイスCOO。カルチャライズも含め、「さまざまな課金方法への対応、ゲームマスターを何人配置するかといった適切なサポート体制の確立、どんなビジネスモデルにするかといったオペレーションが重要だ」と指摘する。

中国を目指す台湾企業

 研究会ではさらに、台北市コンピュータ同業協会東京事務所の吉村章駐日代表が台湾のオンラインゲーム事情を、盛大ネットワーク日本事務所の黄哲代表が中国の動向を話した。

 吉村代表によると、台湾ではオンラインゲーム市場の伸びが頭打ちだ。台湾資策会のまとめでは、2001年に17億1000万台湾ドルだった市場規模は、2002年には約2.5倍の41億400万台湾ドルに急成長。しかし2003年は53億3500万台湾ドル(推定)、2004年は61億3500万台湾ドル(見込み)と伸びが鈍ってきている。

 一方、IDCの予測では、中国では2007年まで年率46%という高水準で成長が続く見通し。台湾では「ユーザーの8割がリネージュなど有名タイトルに集中し、残り2割を各社が奪い合う状況」。このため台湾各社は成長が続く中国への進出を優先課題にしているという。

 中国市場の拡大は日本企業にとってもチャンスだ。「日本には(オンラインゲーム化すればヒットが見込めるゲーム・アニメの)コンテンツがあり、台湾企業はオペレーションに強い。手を組んで進出すれば成功する可能性は高い」(吉村代表)。

 盛大の黄代表も、中国で日本製オンラインゲームがヒットする下地があるとみる。「日本の小説・アニメは中国でも人気。小説ダウンロードサイトでは、『銀河英雄伝説』が『三国志』、『ハリーポッター』を押さえ、全体で6位に入っている」。

しかし「中国は身近だが、遠い国」

 ただし、それもライセンス事業に専念して、運営を中国企業に任せた場合の話。運営企業として乗り込むには、中国政府による規制が大きな障害になると黄代表は指摘する。

 中国で展開するには、ゲーム事業に必要な「ICPライセンス」、掲示板設置用の「インターネット掲示板運営ライセンス」に加え、「インターネット文化経営ライセンス」、「インターネット出版ライセンス」──といった許認可が必要。管轄の機関も文化部、情報産業部、新聞出版総署と多岐にわたる。

 海外メーカーであれば暴力表現などをチェックされる上、正式サービス後に規制が追加され、再審査が必要になる場合もある。運営会社が中国企業なら、そうしたケースでも大きな問題は起こりにくいという。

 パネルディスカッションに参加したコーエーの松原健二氏は、中国ビジネスの現場経験から「ライセンスは取得しておかなくてはならないものだと考えている」と指摘した。

 松原氏は「信長の野望 Online」プロデューサー。中国市場進出を見据え、15年前から現地オフィスを構えて事業を進めてきた。「最悪のケースを想定しなくてはならない。日本政府となら歩み寄って妥協点を見つけられても、中国では政府側の主張のまま、ぴしゃっとふたをされる」。

photo 松原健二プロデューサー(コーエー)

 「例えば、中国にはフォントにも政府公認と非公認がある。非公認フォントをゲーム中で使ってはいけないという決まりはないが、コーエーではすべて公認フォントを使っている」という気の使いようだ。「絶対大丈夫というところまで備えておかないといけない」。

 「中国は身近だが、遠い国。進出したくでもできない」(松原プロデューサー)。成長機会を求めるのなら、外すことのできない中国。しかし進出を図る日本企業には、大きな壁が待ち構えているようだ。

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