コンピュータの前に座って、モニタの側面にある薄いプラスチックのカラーディスプレイを見ているところを想像してほしい。そのディスプレイには高解像度のテキストページが表示され、それを参照し、印刷することができる。横の壁には、同僚のPowerPointのプレゼンや、家族の写真、メモを表示できる大型ディスプレイが取り付けられている。
これは米Hewlett-Packard(HP)が大型・低価格ディスプレイの研究により実現しようとしている未来のビジョンだ。英ブリストルにあるHP Labsは、電子書籍や雑誌、ポスター、さらに電子ホワイトボードなど実現可能かもしれない各種の新たな製品向けに、ガラスの代わりにプラスチックを使った、高解像度の紙のようなディスプレイ技術の開発に取り組んでいる。
HP研究者は10月18日、こうした新しいディスプレイ技術を使った試作品をロンドンのNational Galleryで披露、エレクトロニクスの世界の大部分でディスプレイの壁となっている1000×1000ピクセルを突破する最初のステップだと話した。
「ディスク容量とコンピュータの処理能力は千倍にもなったが、われわれはまだ10年前と基本的に変わらない小さなディスプレイウィンドウを見ている」とHP Labsのディスプレイ研究マネジャー、エイドリアン・ゲイソー氏。
今回披露されたディスプレイは3×4センチと小さなものだが、125色を表示でき、「双安定型」パッシブマトリクスを特徴とする。つまり、研究者は好きなだけの画素数でディスプレイを構築できるということだ。
この爪くらいの薄さの試作品に、National Galleryの有名なコレクションの画像が表示された。研究者は、この技術をもっと大きなディスプレイに拡大できるとの自信を見せた。この技術のもっと発展した利用計画は、さらに取り組みを進めた後、3年ほどで実施する見込みだと研究者らは話した。
「これは大型・高品質で低コストのディスプレイに向けた重要なマイルストーンだと考えている」とデジタルメディア部門とHP Labsのマネジャーを務めるヒュー・ロブソン氏は語った。
このディスプレイを43×58センチとA2サイズ程度に拡大すれば、現行の液晶ディスプレイより5倍安くなる見込みだという。「このように十分に価格が低下することを示すためにコストモデリングを行った」とゲイソー氏。
研究者たちの熱意の源は、ディスプレイのサイズやコストだけではなく、プラスチック上に印刷するような手法を採用したまったく新しいディスプレイ製造プロセスを開発したことにある。この製造プロセスはフォトリソグラフィを使ったガラス液晶ディスプレイよりもずっとシンプルでコストも手頃だという。このプロセスでは、基材上でフィルムの現像に似た手法を使い、画像の表示パターンを達成する。さらにこの技術では、ppiを200以上にでき、通常は紙でしか達成できない画像解像度を実現できる。故にこの技術は芸術やテキストに適していると研究者らは語った。
「この技術は印刷や紙のような用途をターゲットにしている」とゲイソー氏は語り、書籍、雑誌、ポスターのように情報を表示する手段としては、現行の商用ディスプレイ技術は紙にかなわないと指摘した。「われわれはこの技術でまったく新しい可能性を開いたと思う」
この技術の商用化計画は数年先になるが、この研究はプリンティング市場におけるHPの強みにぴったり合っている。
「われわれは常に、進出可能な新たな市場分野の研究に目を向けている」(ロブソン氏)
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