常時接続の環境が普及し、メッセンジャーでメールや電話とも違う感覚のコミュニケーションを楽しんでいる人も多いだろう。それはそれで楽しいが、メッセンジャーは基本的に文字だけのやりとり。
それに比べてビデオチャットは、文字の入力なしに映像と音声でのネットコミュニケーションができる。メッセンジャーとは違った感覚を楽しめることは間違いない。いつも遊んでいるゲーム機にちょっとしたプラスαでビデオチャットが楽しめる――そんな世界がもう間もなくやってくる。
ネットワークの楽しさの根本は人と人とのコミュニケーションだ。友達と、あるいはオンラインで出会った人とゲームやチャットの時間を共有することこそが醍醐味だ。これまではコミュニケーションの手段はテキストチャットがメインで、一歩進んでもボイスチャットまで。そこに映像という要素が加わることによって、よりコミュニケーションは深まることは間違いない。
ネットワークとカメラを連携させて活用することを考えると、PCを使うのが一番なじみ深いのは確かだが、カメラを別途購入した後にPCと接続して、ネットワークの設定をして……など決して手軽とは言い難い手順が必要になる。
家庭用ゲーム機に目を移してみても、PlayStation 2はBBUnitによるネットワーク機能を備え、EyeToyというカメラも用意されているが、カメラはゲーム用入力機器としての位置づけにフォーカスされており、ネットワークとカメラを連携させるソフトは、日本国内ではまだ発売されていない。
「Xboxビデオチャットのカメラは、オンラインでのコミュニケーションツールとして位置づけられています。“いつでも・どこでも・誰とでも”というネットワークの楽しさにプラスして、“ネットワークでつながって、カメラで深まる”という楽しさを提案できればいいですね」(マイクロソフト Xbox事業部 事業開発本部 シニアビジネスディベロップメントマネージャー 大木和彦氏)
「Xboxビデオチャット」のパッケージには、Xboxビデオチャット専用カメラ「Xbox Cam」とマイク一体型イヤフォン「Xboxボイスコミュニケータ」、アプリケーションの入った「Xboxビデオチャットディスク」のほか、Xboxのネットワークサービス「Xbox Live」のスタートキットディスクと12カ月基本サービス利用料までもが含まれている。
これまでゲームを楽しんでいたXboxに6800円のパッケージを追加するだけで、ネットワークサービスでネットゲームを楽しむほか、ビデオチャットを楽しむこともできるのだ。大木氏の言う、“ネットワークでつながって、カメラで深まる”ことがワンパッケージで手軽に実現できることになる。
ちなみに同社は世界規模でXboxの製品開発を行っているが、Xboxビデオチャットは日本のプロジェクトチームが企画・開発したもので、パッケージの発売も日本が最も早い。
Xboxビデオチャットの楽しみ方は非常に簡単。インターネット回線への接続準備ができたXboxにカメラとマイク(ボイスコミュニケータ)をセットし、Xboxビデオチャットディスクをセットするだけ。これだけで1対1から1対4まで、最大5人(5カ所)と映像と音声を使ったビデオチャットが可能になる。
一緒にネットゲームを楽しむ友人たちの待ち合わせ場所として使えば、これから始めるゲームの作戦を練ったり、終わった後の反省会もスムーズだ。相手の表情が分かるからこそ、直接会っているかのような親近感が抱けるだろう。
ホスト役のユーザーが参加者や参加人数の制限を行うこともできるので、内輪だけで盛り上がることも簡単。卒業後、離れて暮らしている同級生たちとチャットを楽しみ、時には一緒にオンラインゲームもといった使い方もアリだ。
チャット中には、ただ相手の顔が映っているだけではない。画像にモザイクなどの特殊効果を加えることができるビデオエフェクト機能や、声に特殊効果を加えるボイスエフェクト機能、自分の画像にイラストを乗せて効果音と共に参加者全員に送るポップアップ機能なども備えており、会話のほどよいアクセントになる。
こうした中でも特徴的なのがシェイク機能。12種類もの振動パターンを参加者全員のコントローラーに送ることができる機能で、うまく会話・映像に組み合わせることができれば、あたかも“ツッコミ”を入れるような使い方もできる。それに50曲以上のBGMも用意されており、雰囲気の共有に一役買う。
さて、このようにビデオチャットとは映像を含んだネットコミュニケーションを総称する言葉として使われることが多いが、その歴史は意外に浅い。ネットを利用した一対一のコミュニケーションとしては、メールが最も利用されているが、メールは「Mail」の言葉通り、感覚としては手紙の延長線上にあるものだ。
メールほど気負わず、より気軽にメッセージを交換したいという意図で生まれ、人気を集めているのがメッセンジャーソフトだ。1996年頃にはICQやAIMが人気を集めるようになり、その後にはより高機能なWindows(MSN)メッセンジャーやYahoo!メッセンジャーなども普及、ファイル転送や映像のやりとりもできるようになっていった。
高機能化を果たしたメッセンジャーだが、あくまでもテキストでの会話をベースに機能向上を果たしていったもので、映像に関する機能は副次的なものに過ぎない。映像への対応についても、MSNメッセンジャーにて映像のやりとりに正式対応したのは2003年7月提供開始のバージョン6.0からと、ほんの1年ほど前のことだ。
当初から映像と音声をネット経由でやりとりすることを目指したサービス――TV電話の歴史も意外に浅い。一般的な商品として登場してきた時期はメッセンジャーソフトが人気を集めたころと一致しており、1997年にはアルプス電気やブイ・ディー・オーネットジャパンがパッケージやソフトを発売している。だが、当時のサービスは紙芝居のようにカクカクした映像に不鮮明な音声であり、「TV電話」としてイメージされるものとはほど遠いものであった。
しかし、ADSLやFTTHに代表される高速な常時接続回線が普及してきた今、映像と音声をネット経由でやりとりする高品質のサービスが身近なものになりつつある。
小さな画面にとぎれとぎれの音声――そんなTV電話のイメージを覆したものとして、多くの人に認知されたのがNOVAの在宅語学学習サービス「お茶の間留学」だろう。
お茶の間留学は1997年に現サービスの原型が開始し、2002年8月にはISDN/ADLS/FTTH/CATVに対応した高機能型のTV電話端末が導入されている。そして2003年2月には関西電力系のFTTHで、2004年5月には東京電力系のFTTHを利用してのサービスが提供されるようになり、家庭用TVを利用しながらも、最大で秒間30フレームという非常に滑らかな映像のやりとりを実現するまでにいたった。
常時・高速接続ネットワークの普及という追い風を得たお茶の間留学の利用者は現在16万人を超え、10月には九州電力系FTTH(BBIQ)でもサービスが開始されている。この追い風を得たのはNOVAだけではない。ポータルサイトなどが提供するチャットサービスにも、ビデオチャット機能を備えるものが増えている。
ヤフーの提供する「Yahoo!チャット」には2003年2月からビデオチャット機能が実装されており、テキストの会話に映像を添えることができる。また、アップルのインターネットサービス「.Mac」で提供されているチャットサービス「iChat」も、2003年6月から別途販売されているWebカメラ「iSight」を利用することによって、ビデオチャットサービス「iChat AV」を利用することが可能になった。
このように、高速ネットワークの普及と相まって、専用機やPCを利用したビジュアルコミュニケーションが一般的なものになりつつある。やや外れた話になってしまうが、NTTドコモがPRしているFOMAの「テレ電」も、ビジュアルコミュニケーションという面ではTV電話やビデオチャットに近い側面を多分に含んでいる。「映像」を、音声や文字と同じくコミュニケーションツールとして活用する、そうした感覚が徐々に身近なものになりつつあるのだ。
そして、11月25日には家庭用ゲーム機「Xbox」を利用したビデオチャットサービス「Xboxビデオチャット」が開始される。
これまでPCか専用機でしか体験することができなかったビデオチャットが、家庭用ゲーム機でより気軽に楽しめるようになる。2004年こそがビデオチャットのテイクオフ元年として記憶されることになる可能性は高いといえるだろう。
手軽に試せるということは、新しいコミュニケーション手段の普及のためには欠かせない要素だ。メールの爆発的な普及も携帯電話がメール機能を備えてからのことだし、インターネット自体も、ADSLがここまで低価格化しなければ、まだまだ一般的なものになっていなかったかもしれない。
「TV電話」という言葉自体は昔から広く世間に知れ渡っていたものだったが、同時になかなか現実味を帯びない言葉でもあった。映像と音声を使ったコミュニケーションが普及するための突破口は、PCでも携帯でもなく、手軽に試せる家庭用ゲーム機という可能性もあるのではないだろうか。
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