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テレビコマーシャル時代の終焉(2/3 ページ)

» 2004年11月22日 09時52分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 コンテンツの内容を客観的に見ても、ほとんどの場合番組の内容とコマーシャルの内容は、まったく関連性がないからだ。だが一部アニメなどでは、番組コンテンツのキャラクター商品のコマーシャルが番組中に挿入されるケースも出てきている。これなどは、関連していないとも言い切れない面がある。

 単にコンテンツの内容比較だけは、この問題は解決しない。それよりも、「番組とコマーシャルが連続したもの」に、著作物として著作権が保護する必要のある“創造性”があるか、といったところに注目すべきだ。著作権法の二条一項一号には、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されている。

 おそらく多くの人が、番組とコマーシャルがどうやって放送に出されているかの仕組みを、ご存じないだろう。この二つは、全く別々のところで管理されている。

 番組のほうは、番組送出バンクと呼ばれる「送出装置」から出される。番組が収録されたビデオテープには、番組の内容だけが記録され、コマーシャルはそこに記録されていない。コマーシャルが入る部分には、その時間分だけ黒い画像が収録されている。

 一方コマーシャルは、「CMバンク」という別の装置で管理されている。通常コマーシャルを収録したビデオテープは、1本1本が別々のテープで放送局に納品されてくる。以前は放送に使うものをダビングで1本化してまとめていたが、現在はほとんどビデオサーバからの送出になっている。

 これら二つの独立したバンクを制御するのが、「自動番組送出装置」だ。業界ではAPC(Auto Program Controller)と呼ばれている。これは1日のタイムスケジュールを実行スクリプトとして入力することで、自動的にどのVTRから何時何分に映像を出す、といったことを制御する。テープの入れ替えなども全部自動だ。

 一つの番組は1本のビデオテープに収められているから、放送中は一定速度で回りっぱなしである。コマーシャルのタイミングになると、APCが自動的にCMバンクからの出力に切り替えて、コマーシャルを出す。もちろんどのコマーシャルをどの順番で出すかは、番組ごとに事前に決まっているわけだ。

 この事実から考えると、番組とコマーシャルを1本の作品と見なすのには、無理があるように思う。両者は別々に存在し、それぞれのスケジュールに従って機械的に切り替わっているだけだ。

 さらに地方局では、番組部分はそのまま流して、コマーシャル部分は地元のスポンサーのものに差し替えている。コマーシャルを含めて全体の同一性を求めるのならば、同じ系列局内で著作権侵害を犯していることになる。

 無作為を芸術にまで高めた例は、今までないこともない。20世紀中期に活躍したアメリカの作家、ウィリアム・バロウズは、「カットアップ」という手法を使って、独自の世界観を築いた。カットアップは、あるまとまった文章をバラバラにして、それをランダムにつなぎ合わせるという手法だ。

 だがこの手法も、創造の過程における方法の一つとして用いられたのは明白である。すなわち、つなぎ合わせた結果をバロウズ自身も評価して芸術性を見いだしたであろうし、出版する編集者もコンテンツとして評価した結果、世に出されたわけである。

 一方番組とコマーシャルも、双方がどのようなカットで切り替わるかは、お金の都合で並べられた映像の偶然の産物でしかないことから、完全に無作為ではあるが、創造性として評価の段階を経ずに、直接電波として出力される。ものすごく創造性の高いマスターさんがいて、こことここのCMのつながりが変だからといって別のCMにスイッチングしたりすれば、おそらく月の裏側までぶっ飛ばされるだろう。

 筆者自身も編集マンとして、番組もコマーシャルも編集した経験があるが、番組の最後のカットとCMの最初のカットが合わないから差し替えてくれないかという依頼は、今まで経験したことがない。製作サイドも、両者は別のものであると認識しているからである。

身勝手なものへと変質した広告

 津田大介氏との私的複製に関する対談で、筆者は放送を文字通り、“送りっ放し”という非常に原始的なモデルであると表したが、広告が最もその悪い部分を背負ってしまったところに、先だっての民放連会長の発言を引き出した要因があるとも言える。

 広告による放送の収支モデルは、おそらく視聴者も十分に理解するところだろう。だが広告に見てる側の利益が感じられないから、邪魔にしか見えないのである。広告の歴史をさかのぼっていくと、かつての広告には、モノを売る以外の「機能」を持っていたことがよくわかる。

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