ITmedia NEWS >

テレビコマーシャル時代の終焉(3/3 ページ)

» 2004年11月22日 09時52分 公開
[小寺信良,ITmedia]
前のページへ 1|2|3       

 動画が現存する日本最古のテレビCMと言われる精工舎(現セイコー株式会社)のコマーシャル(こちらを参照)は、時計が持つ機能としての「時報」と連動することで、公共的な役割を担っていた。またゼンマイの巻き方や設置場所のような、時計を扱う上での情報をコマーシャル内で提供することで、人々の役に立った。

 さらにさかのぼって、明治時代には「森下仁丹」で知られる森下南陽堂が、自社の広告の入った町名看板を全国に展開している。これは当時、街角に町名表示のようなものがなかったため、来訪者や郵便配達人が家を捜すのに苦労していた当時の問題を解決するという、「広告益世」の理念に基づいたものであった。

 つまり広告そのものに、単に商品を露出するだけでなく、広く人の役に立つべき、という理念があったのだ。一方で今のコマーシャルを振り返ってみて、どうだろうか。人の役に立っているだろうか。

広告はインフォマーシャルの時代へ

 そもそもテレビコマーシャルの15秒や30秒で、自社の商品を広告し、あわよくば人の役にも立とうというのは、どう考えても無理がある。そう言う意味で筆者は、現在のテレビコマーシャルのあり方が、“広告”として破綻するはそう遠くないだろうと見ている。これから放送で行なう広告は、インフォマーシャルに変質すべきだ。

 現状のテレビコマーシャルは、それに興味がない人にとってはゴミにしか過ぎない。だが逆に興味のある人にとっては、あまりにも情報が少なすぎる。

 例えば車でもなんでも、買うつもりになっている人に対してその商品のスペックや特徴をきちんと説明するには、やはり少なくとも2分から5分ぐらいの時間が必要だろう。そのように細部までの情報を含む広告が、インフォマーシャルである。だがそんなに長い広告を無作為に放送することは、関係ない人にとってはさらに迷惑となる。

 要するに、その情報が必要な人に確実にリーチできる方法が確立できれば、放送でインフォマーシャル広告はアリなのである。ではどうするか。それには米Tivoが実践しているモデルがあるので、参考になるだろう。

 まずインフォマーシャルの放送自体は、あまり人気のない放送局の深夜枠を30分ほど、Tivo社がスポンサーとして安く買い取る。そこに各社のインフォマーシャルを全部繋げて、まとめて「番組」として放送する。レコーダーはそれを自動的に録画するように、あらかじめ仕込まれている。

 録画したインフォマーシャルは、レコーダー内でスポンサー別にチャプタが打たれて、ユーザーが削除できないないエリアに保存され、待機している。時間が経てば、すなわち広告としての寿命が終われば、別のものに上書きされる。

 放送局は、一般のコマーシャルを放送しているときに使われていない信号、例えばC.C(クローズドキャプション)のような部分に、レコーダー内のインフォマーシャル部分へのリンクを埋めておく。このコマーシャルを録画したTivoレコーダーは、再生するときにこの信号をキャッチして、画面にポップアップを出す。この商品に興味があったら、このボタンを押せ、という表示だ。

 視聴者がそのボタンを押すと、レコーダ内にあらかじめ録画されていたインフォマーシャルがすぐに再生される。視聴者は興味のあるものの情報を、コマーシャルを見る以上に詳しく知ることができるというわけだ。インフォマーシャルの再生が終わると、自動的に元の再生位置に戻る。

 仕組みとしては、HTMLが行なっているハイパーリンクの考え方を時間軸に載せ替えたもの、と考えていいだろう。さらに重要なのは、BML(Broadcast Markup Language)やB-XMLのような、この先どうなるかわからない技術に頼るのではなく、既にある技術を応用して、「今」実現しているという点である。

 またこのモデルでは、どのぐらいのユーザーがインフォマーシャルにアクセスしたかもわかるし、購入へのアクションもそれ専用の窓口(電話番号でもURLでも)を作っておけば、広告代理店はクライアントからしつこく突かれて喉から手が出るほど欲しい、広告の費用対効果もすぐにわかる。

 もちろん番組中のコマーシャル自身も、CMスキップ機能に合わせて柔軟に変質している。米国のコマーシャルでは、早送りされることを想定して、最初からスローモーション状態で放送するものや、クレジットカードがずーっと画面中央に出続けるものなど、いろいろなアイデアが試されている(関連記事)

 状況が変わったならば別の方法を考えれば済むことだ。それを今までの方法が通用しないのは著作権違反だとふんぞり返るような態度では、コンセンサスは得られまい。どこかの業界も、それで潰れそうになったばかりではなかったか?

 今回の「事件」は、そろそろテレビも視聴者が声を上げていい時期にさしかかってきているというサインなのかもしれない。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.