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WOWOWデジタルプラスが狙うシナジーの読み方(2/2 ページ)

» 2004年12月02日 17時01分 公開
[西正,ITmedia]
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 もしそうした方法を採った場合、BSデジタル放送と110度CS放送の間でシナジー効果が働くどころか、むしろWOWOWの持つブランド力を引き下げることになってしまいかねない。

 というのも、それなりの視聴料を受け取る代わりに、コンテンツはぜいたくに取りそろえているところに、WOWOWならではのブランドが確立しているからだ。この点は見逃すべきではないだろう。エンターテインメント分野での“ブランド”は、メーカーのように原価計算で一銭一厘を切り詰めながら形成していくブランドと同じではないからだ。

 スカパー!の委託放送事業者の顔ぶれを見ても、ブランドの高さでWOWOWに匹敵するところは見当たらない。加入者数で上回るところはたくさんあっても、600億円以上の売上げを誇る事業者は見当たらない。BSアナログからBSデジタルへの移行に苦労しているため、その業績に対して厳しい指摘をする声が多く聞かれるが、あくまでもそれはWOWOWだからということを前提とした上でのことである。WOWOWというブランドが高いからこそ、それに対する評価のハードルも高くなっているのだ。

 そうした事情を認識した上で、110度CS放送への展開を図る際に発揮されるシナジーとは何であるかを考えると、新たにパートナーシップを組むことにした5チャンネルの顔ぶれに、それなりの意味合いがあることが分かる。BS放送のWOWOWからあふれたものを拾い上げるチャンネルではなく、BS放送のWOWOWにはないものを見せていくチャンネルであるということである。

 確かに、WOWOWには経済ニュースはないし、囲碁将棋もない。邦画も採り上げているが、その割合はそれほど高くはない。デジタルテレビの中心が三波共用機になっていく中で、BSデジタル放送と110度CS放送はリモコン操作一つで見たい方をどちらも見られるという形になっていく。WOWOWにないジャンルを扱うチャンネルと、WOWOWとをパッケージとして売っていくことにより、パッケージの重複感を感じさせないように組み立てられている。

 それに加えて、CSの5チャンネルが想定している視聴者として、比較的シニアな年代層がターゲットとされていることに気付くはずだ。三波共用のデジタルテレビは、普及しつつあるとは言え、現状では、まだまだ安い買い物とは言えない。地上波がF1・M1世代をターゲットとしているのに対して、一定の線引きがなされていることは間違いないだろう。110度CS放送のマーケットサイズを考えれば、そこそこ体力のあるチャンネルでないと放送を継続していくことはできない。五つのチャンネルがその要素を兼ね備えていることは当然である。

 以上のように、WOWOWという強力なブランドを持つ放送事業者が、改めて110度CS放送のプラットフォーム事業に参入していくには、今回のような形が最も望ましいものであったことは間違いない。しかしながら、今歩んでいる道の先に、成功が待ち受けているとは限らないし、うまく行かずに終わってしまう可能性も否定できない。試行錯誤的に取り組むのであれば、あまり大掛かりにやらない方が堅実というものである。プラットフォームが本業のスカパー!と肩を並べるほど力を入れる必要はないだろう。

 ただ、BSデジタル放送について言えば、有料放送と広告放送の違いこそあれ、経営的に苦労していることにかけては、むしろ民放キー局系各社のほうが重症との感はぬぐえない。地上波放送という強力な事業の後ろ盾があるからこそ成り立っているが、今後の再建に向けた模索が続いている。そして、民放キー局系の各社は、110度CS放送にもそろって参入を果たしており、そのマーケットサイズに頭を悩ませている点についても変わらない。将来的な構想として、BSデジタル放送と110度CS放送の両者に、どのようなシナジーが期待できるのかについても共通の課題となっている。

 BSデジタル放送と110度CS放送のシナジーを模索することにかけても、有料衛星放送のパイオニアであるWOWOWが最初に挑む形になった。まったく同じビジネスモデルにはならないだろうが、パイオニアのチャレンジは、同じ悩みを抱える事業者から成否の行方を注視される。そうした点でWOWOWという会社は、巷間言われている評価以上に、高いレベルで注目されているのである。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「モバイル放送の挑戦」(インターフィールド)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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