既報の通り、東京・ビックサイトで行われている「エコプロダクツ2004」で、パイオニアがトウモロコシから製造したBlu-ray Disc(BD)メディアの展示を行っている。日本ビクターも、トウモロコシから合成したプラスチック「ポリ乳酸」によるDVDディスク製造技術を先日発表した。
両社の方式にはどんな違いがあるのだろうか。また、なぜ“トウモロコシ”なのだろうか?
ビクターが新素材して採用したポリ乳酸とは、トウモロコシなどのでんぷんから合成されるプラスチック。現在CDやDVDの素材として使われているポリカーボネートは石油から製造されているが、ポリ乳酸はでんぷんから製造するので、温室効果ガスの増加抑制や石油消費量節減などに寄与する、いわば“地球に優しいプラスチック”だ。
ビクターでは環境保護を前提とした製品開発を全社的なテーマに掲げている。「DVDの約95%を占めるのはプラスチックなので、そこを石油ベースの素材から切り替えることができれば環境への配慮を実現できるのではと考えた」(ビクター技術開発本部 デバイスユニット主席研究員の辻田公二氏)
ポリ乳酸自体は透明で、素材としてもポリカーボネートに近い特性を持っている。加えてメディア製造についても、張り合わせ時の接着剤や射出成型時の設定などに若干違いはあるものの、現行のDVDとほぼ同じ工程で製造可能だという。
しかし、ポリ乳酸はポリカーボネートに比べると熱に弱いため(40〜50度で変形してしまう)、再生機器内の温度上昇によってディスクが変形してしまう危険性があった。同社では特殊な樹脂をポリ乳酸に混合することによって、55度までという耐熱性を確保すると同時に、DVDとほぼ同じ工程で生産可能という生産性の高さを両立した。
ビクターと同じく、パイオニアもトウモロコシを光ディスクの素材に使うことを提案しているが、そこには微妙な違いがある。
両社とも原料は同じトウモロコシだが、ビクターの製造工程は「トウモロコシからでんぷんを抽出」→「でんぷんを乳化、ポリ乳酸を生成」→「ポリ乳酸をメディア基板に成形」となっているのに対して、パイオニアは抽出したでんぷんを乳化せず、そのまま「でんぷん樹脂」に加工した後にメディアの基板として利用する。
ビクターの製造工程には「乳化」というプロセスが加わるため、現時点で単純にメディアの価格を比較すると、ポリカーボネートに比べて3倍近く高価になる。それに対して乳化プロセスを省けるパイオニアは「素材としてはポリカーボネートより安価。製品化しても現状(ポリカーボネート製ディスク)と同レベルの価格を維持できる」と製造面でのコストメリットを語る。
一方、ビクターの用いるポリ乳酸はポリカーボネートに近い材質特性を持っているため、DVDの記録に不可欠な「ピット(溝)」を直接刻み込むことができる。しかし、パイオニアの方式では基板に直接ピットを刻むことができず、アクリル樹脂のその上にかぶせ、そこにピットを刻む形になっている(直接ピットを刻む方法も開発中だという)。
「ポリ乳酸を使用しているので、確かに現時点ではコスト高だが、量産が進めば乳化工程を含めた全体のコストダウンも期待できる。しかし、コスト以上に、成形したメディアに直接ピットを刻むことができることのメリットは大きいと考えている」(ビクター辻田氏)
つまり、両社ともトウモロコシを原材料にしながら、ビクターは「コスト高ながらも製造しやすい」、パイオニアは「低コストながらも製造しにくい」という特徴を持っているのだ。この違いは、ビクターがDVDでの利用を目指したのに対して、パイオニアはBDでの利用を目指したことに起因するのだが、両社とも光メディアに植物系材料を使用することで、二酸化炭素の抑制や石油資源節減に役立てようという目標は同じだ。
「石油系材料を使わないことで環境に配慮する」その点について同社の考えは一致している。では、なぜトウモロコシなのか。
ビクターの辻田氏は「環境への配慮という面では、ポリ乳酸ではない非石油系の素材を選ぶとことも考えましたが、DVDに使うことを考えると透明であるという点を譲ることはできませんでした」と、DVDメディアの素材として非石油系材料を探した際に、トウモロコシを原材料とするポリ乳酸がベストであったから、とその理由を述べる。
また、パイオニア 研究開発本部 総合研究室 ナノプロセス研究部 第三研究室 副主事の志田宜義氏は「トウモロコシは世界的に見ても大量生産されており、また、実の部分だけではなく、芯の部分も原料として使える可能性があることから、コスト面での心配が少ない」としている。
「長期保存に対する耐久性は検証中、コスト面では量産効果を期待する」(ビクター辻田氏)、「耐熱性や形状変化への耐性については改良の余地がある」(パイオニア志田氏)と、それぞれに超えなければならないハードルは存在する。しかし、環境への配慮がより求められる中、こうした素材についての研究開発は今後も加速していくことが予想される。
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