加入者の伸び悩みに苦しんできた110度CS放送にとって、地上波デジタル放送の開始を機に市場に投入された三波共用のデジタルテレビ(以下、三波共用機)の売れ行きが好調なことは、今後に向け好材料になると期待された。
なぜなら110度CS放送やBSデジタル放送にとっては、まずは視聴してもらうための受信機の普及が、視聴者数を増やしていくための課題となっていたからだ。三波共用機は必ずしも三波を視聴するために売れているわけではない。三波共用機の主流となっているプラズマ、液晶など薄型テレビは、そのデザインの良さと、大画面でも場所を取らないことが、ユーザーニーズを掘り起こした形になっている。
とはいえ、三波共用機が好調に売れていることは、110度CS放送にとって、労せずして課題の解決になっている。これまでは、量販店の店頭で見てもらうくらいしか対策がなかったが、三波共用機を購入した顧客には自動的に「お試し」で視聴してもらえるチャンスがあるからだ。
無料放送の民放キー局系BSデジタル放送の場合には、三波共用機が売れた分だけ視聴可能世帯が増えるので、あとはコンテンツ次第で視聴者数を増やすことができる。そういう意味では、有料放送をベースとした110度CS放送にとってこそ、「お試し」視聴の機会が増えることの意味合いは大きい。
有料放送の場合、視聴者が「お試し」を無料で見て、気に入ったチャンネルがあったら契約してもらうという流れになるが、従来は「お試し」を見てもらうという“きっかけ”の部分に最大の難問があったのである。110度CS放送に対する認知度の低さからすれば、三波共用機が普及することになって、初めてBSデジタル放送と1台のアンテナでCS放送も見られるという、開始前に散々言われてきた強みが発揮できる形になってきたわけだ。
しかし、三波共用機が売れ始めて一年が経過したものの、110度CS放送の加入者数が大きく伸びる方向に転じた気配はあまり見られない。その最大の理由として考えられるのが「アンテナ問題」である。
そもそもBS放送やCS放送を視聴するためには、パラボラアンテナを必要とする。三波共用機を購入した顧客が、同時にアンテナも購入してくれるのであれば、何も問題はないのだが、実際には「テレビは買うけれど、アンテナならもう持っています」というケースが非常に多いのである。
これは、10年以上前に放送を開始したNHKのBS放送がギネスブックもののスピードで普及し、今では1500万世帯を超える視聴者を獲得しているからだ。アンテナを付けて直接受信している世帯もあれば、ケーブルテレビ経由で視聴している世帯もあるが、7割近くが直接受信世帯であると言われている。つまり、BSアナログ放送を受信するためのパラボラアンテナが、1000万件近くの世帯に取り付けられているのである。その結果、「アンテナならもう持っています」と、テレビだけを購入していく顧客が多くなっているのだ。
いくらデジタルテレビを購入したところで、アナログのアンテナではデジタル放送が視聴できないというのであれば、アンテナの買い替えも進むはずだ。しかし、アナログのアンテナでもBSデジタル放送の方は視聴できてしまう。それでいて、そのアンテナでは110度CS放送は映らない。映らないことには、「お試し」も何もあったものではない。
せっかく三波共用機が売れているのに、110度CS放送には露出のチャンスすらないままになっているケースが多いのである。これでは加入者が大きく伸びなくても不思議ではないだろう。
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