昨年12月半ば、iTunes Music Store(iTMS)が通算2億曲目の楽曲を販売した。スタートしてから約1年8カ月での達成だった。日本市場を見てみると、ネットを利用した音楽配信サービス自体は1999年にスタートしたbitmusicまでさかのぼることができるが、現在に至るまで、iTMSほどの成功を収めたサービスはない。
しかし、2004年はこれまでにないほど音楽配信サービスを巡る動きが活発化した年であり、その流れは2005年にも継続されてゆく可能性が高い。昨年の動きを確認しつつ、今年、音楽とITがどのようなかかわり合いを見せるのかを考えてみたい。
前述のように、2004年は日本の音楽配信サービスを巡る動きがこれまでにないほど活発化した年であった。5月にはポータルサイトのエキサイトが「Excite Music Store」(エキサイトミュージックストア)を開始、10月にはMSNが「MSN ミュージック」を開始した。
そのほかにも、gooの「goo Music Store」やOCNの「OCN MUSIC STORE」などがサービスを開始(参考記事1、参考記事2)したほか、PCを利用しない音楽配信サービス「Any Music」が開始されたのも大きなトピックに挙げられるだろう。
いずれも複数の大手レーベル(レコード会社)から発売されている最新楽曲を購入可能となっており、これまでの「音楽配信サービスでは、いわゆる“定番曲”しか購入できない」という流れに一石を投じる形になった。また、エキサイトやMSN(マイクロソフト)、gooなどといった知名度の高いIT系企業が音楽配信サービスを開始したことによって、音楽配信サービス自体の知名度が上昇したことも忘れてはならないだろう。
エイベックスやソニー・ミュージックエンタテインメント、ビクターエンタテインメントなどレコード会社18社が資本参加しているレーベルゲートの「Mora」も配信曲数を昨年12月1日現在で10万曲まで増加させており、音楽配信サービスに対して“今年こそ”と期待する声も多い。
「2004年を総括すれば、“手応えがあった年”といえます。ダウンロード数も順調に伸び、10月には17万、11月には27万、12月には30万を超える勢いです。これは過去最高を更新し続けている数値です」(レーベルゲート プロモーションチーム係長の長嶺徹氏)
長嶺氏はこの“手応え”を「すべての要素が整ってきたから」と説明づける。ブロードバンド環境の普及という外的要因に加え、ストア自体の収録曲数の増加、検索機能などの使い勝手の向上、見せ方の工夫にノウハウが蓄積されてきたことから、「そこに行けば、興味を引かれる音楽が必ずある」というメガストア的な商品展開が可能になったことが成長の要因だと分析している。
一方、CDのセールスに目をやると、2004年は数年来減少している売り上げも持ち直すことなく、ミリオンヒットと呼ばれるようなタイトルの出現も皆無だった。そして、音楽配信サービスが本格的なブレイクへ向けて勢いを見せる中、CDを取り巻く環境にも大きな変化が起こった。春に表面化したのが輸入権についての問題だ。
これは当初、アジアで発売された低価格な邦楽CDの逆輸入を防ぐという趣旨で説明されていたが、CDの輸入全般を規制しうるものであると判明してから、多くのユーザーの関心事となった。
一見、ITとは関係のない話題のようであるが、CCCD導入やP2Pが原因で売り上げが落ちたと考えたレコード会社側が利益確保のために仕掛けたのでは考えたユーザーもいたため、結果としてITと関連の深い層をも巻き込んだ問題と発展した。
結局のところ、付帯議決は付いたものの輸入権の導入は決定し、1月1日付けで施行された改正著作権法をもって運用が開始された。だが、審議中にも再三に渡って問題にされた「実際になにをもって規制すべきCDとするのか」という基準については、12月中旬になってもメガストアと呼ばれるような大手CDショップにすらはっきりとした形で伝わっておらず、事態の推移次第では2005年にまた新たな問題が発生する可能性がある。
音楽流通という側面から言えば、2004年は「欲しい曲を欲しいときに」というユーザーが主導するスタイル(音楽配信サービスや着うた)の勢いが加速した年であり、「CDというパッケージ形態でレコード会社側が主導する」というスタイルの衰退が始まった年として記憶されることになるのかもしれない。
「CD購入層が携帯電話にお金を使うようになった」「大ヒットをとばすアーティストの不在」「音楽に関する好みの多様化」など、さまざまな要因があることは確かだが「もうメガヒットの時代ではない」という、あるレコード会社の言葉がその背景を端的に示しているように思える。
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