1月6日、松下電器産業、三菱電機、ソニーの3社は、電灯線を利用したホームネットワーク技術「高速電力線通信(PLC)」の相互接続仕様を確立するため、アライアンス(仮称:CEPCA)を設立すると発表した(関連記事)。
順を追って説明すると、電灯線、つまり家庭内に引き回されている100ボルトの交流電線に高周波の信号を変調して、ネットワーク線として利用するという技術がPLCだ。そもそも電力線を使った通信というのはかなり前から研究が進められており、まだインターネットの常時接続が一般的でなかった2000〜2001年頃、この技術を使って電力会社がプロバイダー業務へ参入か、などと騒がれたことがあったのをご記憶の方もいらっしゃるかもしれない。
PLCの大まかな概要は、日本向けのPLCオフィシャルサイトで分かるようになっているので、参考になるだろう。
現在のところPLCは、通信機器メーカーが各社独自仕様で技術開発を行なっているため、使用する周波数や出力などの仕様が異なっていると、ネットワーク上で干渉する。そこでCEPCAでは、周波数の割り当てやチャンネル区分などを設けて、複数方式のPLCシステムが共存するようにするという目的のもとに設立された。
PLCのメリットは、なんといっても既存の電力線を使って高速通信ができるということにある。家庭内において部屋中に引き回されている電力線でLANができるので、コストをかけずに手軽にホームネットワークが実現できるという。
だが、本当ににそうだろうか?
PLCには、方式として大きな問題がある。それは高架配線されている電灯線に高周波を変調するために、漏洩電磁波の発生が避けられないという点だ。
すでにPLCが認可されている欧州では、電灯線のほとんどが地中配線である(国土交通省資料)ため、比較的電磁波の影響がないという背景がある。同時に地中の電灯線のみに利用制限されているケースも多いようだ。同じく認可されている米国では、軍事施設から半径10キロ以内では使用を自粛するなど、その影響の軽減がかなり重要視されている。
国内でも、PLCによる漏洩電磁波の影響を懸念する声は多い。この点でもっとも活発に公開実験などの活動しているのが、アマチュア無線連盟(JARL)である。アマチュア無線は商用無線と違って出力が小さいため、受信機の感度はかなり高い。微弱な電磁波であっても、大きな影響を受けてしまう。
またインフラとしても、アマチュア無線の存在を軽視することはできない。実際に先日のスマトラ沖大地震において、大半の通信インフラが壊滅状態にある中、アマチュア無線による非常通信が重要な役割を果たしているという(JARL資料より)。
じゃあアマチュア無線に認可されている周波数帯だけをフィルターでカットすればいいや、という問題でもない。PLCによる漏洩電磁波周波数帯に関係する事業は、いくらでもある。警察無線や漁業無線、NHK、日本短波放送、CATVなどは、少なくともこの影響からは逃れられない。
おそらく一般家庭でもっとも影響が大きいのは、CATVだろう。インターネットのインフラとして、あるいは難視聴対策として大きな割合を占めるCATVの敷設回線は、PLCが実用化されれば、当然なんらかのシールド対策を施さなければならない。だが、その費用をどこがどういった形で負担するのか、具体的なものはまだなにも見えていない。
対策の一環として、現在のメタル線を光ファイバーに敷設し直すことも有り得るだろう。だが自主的に敷設する場合と、障害対策として敷設する場合とでは、ずいぶん話が違う。NTTから回線を借りるにしても、その追加費用の問題が残る。
PLCのサイトにある利用イメージ図では、各機器に対してPLCモデムが存在することになっている。だがいくら途中のケーブル代がかからないからといって、こうもいちいちモデムを取り付けていたら、そのコストがバカにならない。
おそらく将来像としては、製品の電源ユニットにPLCモデム機能が組み込まれて、コンセントに差すだけでネットにつながる、というところまで行かなければ、面倒くさくてしょうない。だがそれには、製品を買い替えるタイミングというものが関係してくるだろう。また対応製品がどれぐらいコストアップするのかも、今のところまったく分からない。当然WANへの接続では、利用料金がモデム単位で加算されていくというバカバカしいモデルを平気で提示してくる可能性も、ないとは言えない。
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