ブロードバンドが予想を上回るスピードで普及したこともあり、肝心のコンテンツの方の充実が急がれている。テレビ局が有する豊富なソフトをネットでも配信したいという要望が根強い事情は非常によく分かる。
通信事業者各社にとって最も望ましいのは、ブロードバンド上でIP方式のまま、地上波放送を再送信できることであろう。だが、テレビ局側の了解は、そう簡単には得られそうにもない。VOD形式の使い方についても、昨年から一部のアーカイブ物が提供され始めているが、本格的な展開というには、まだ程遠い。
これまでテレビ局側の主張は一貫してきた。それは「テレビ番組のネット配信についての諾否は、権利者団体の判断による。われわれが勝手に決められることではない」というものだ。
確かに、テレビ番組が制作される際には、放送サービスで使われることを前提とした権利処理がなされているので、それをIP方式のような形で通信サービスとして使用するためには、改めてそのための権利処理を行わなければならない。テレビ局としても、せっかく作ったソフトなのだから、多元的に利用することができれば、収入機会が拡大することになるため、本来ならIP方式による放送は決して消極的になる筋合いの話ではない。
しかしながら、一つ一つのソフトに関与する著作権者は非常に多岐に渡るため、改めて著作権処理を行うようでは手間ばかりがかかって、とても採算が合わなくなってしまう。だから、理想論としては、放送利用の場合と同じような明確なルールを作り、制作に入る前の段階で通信での利用も含めた包括的な権利処理を行っておけばよい、ということになる。
だが、実際問題としては、そうはいかない。そのソフトがヒットするかどうかなど分からないからだ、その段階で、テレビ局としてはあまり多くのコミットはしたくない――という理屈が優先されることになる。
ネットとテレビの融合が進まない理由として、これまで「著作権問題が壁になっている」と説明されてきたのは、以上のような文脈のものであった。だが、その“事情”が今変わろうとしている。
日本経団連は「ブロードバンドコンテンツ流通研究会」を通じ、ブロードバンド配信における著作権処理ルールの策定を協議してきた。その結果として、民放連と、JASRAC(日本音楽著作権協会)など著作権関連16団体が話し合ってきた成果が、経団連を通じて発表された。ここで発表された暫定料率が、この4月からテレビドラマなどのブロードバンド配信にあたって適用されることになる。。
それによると、テレビドラマをブロードバンド配信する事業者は2005年度、その情報料収入の8.95%と広告料収入の1.35%を著作権使用料として支払う。今回の暫定料率は、テレビドラマをストリーミング形式でブロードバンド配信した場合に適用される。ダウンロード形式で番組を配信する場合の著作権使用料は別途、協議されていくことになるという。
暫定料率の内訳を見ると、テレビドラマ原作者の権利者団体である日本文藝家協会など文芸分野の3団体には情報料収入の2.8%。また、作詞家や作曲家といった音楽関係の権利者団体であるJASRACには、情報料収入と広告料収入のそれぞれ1.35%を楽曲使用料として支払う。
さらに、日本レコード協会など音楽CDや歌手の権利者団体である3団体には情報料収入の1.8%を、テレビドラマの出演者の権利者団体である実演家著作権隣接センターなど2団体には3%を支払う。いずれも暫定料率であることから、2006年度以降の著作権使用料については、改めて協議されることになっている。
ネット配信における著作権料率が暫定的とは言え、個別作品ベースに限らず包括的な形で決められたことにより、テレビドラマをブロードバンドで配信する道は大きく開かれたように見える。もっとも、著作権問題を簡単に考えることは非常に危険であり、通信事業者側は引き続き、権利者への繊細な配慮を欠かすべきではないだろう。
権利者の心情として、自らが関与した作品が粗略に扱われることを嫌うことは当然である。対価さえ得られれば良いということにはならないが、「対価」も作品の扱われ方を捉えるひとつの大きな指標である。ネット配信が行われることによって、どの程度の市場規模が生まれてくるのかが分からないことには、「正当な対価」がどの水準であるかを判断すること自体が難しい。暫定料率でスタートしてみることで、「正当な対価」を知るための手がかりが得られていけば、ネット配信も作品の見せ方のひとつとして認知されていくことだろう。
ただ、対価だけの問題ではないというのは、権利者サイドには未だ「ネット配信の安全性」に対する根強い不安感があるという事情がある。ストリーミングを前提とした料率が先に決まり、ダウンロード形式の配信については今回先送りされたのも、その辺りの不安感を如実に物語っている。
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