ライブドアによるニッポン放送買収問題は、最終的にフジテレビを含めた3社が業務提携を目指すという形で決着した。
一連の買収劇についてTVなどマスコミは、“株式購入による企業買収”というビジネス的な論点を中心に報道するケースが多かった。だが、そのほかにも「放送と通信の融合」「ネットと既存メディアの関係」「日本企業の体質の古さ」など、多くの問題がその背景に山積していることを浮き彫りにした。
国際大学グローバル コミュニケーション センター(GLOCOM)で行われたシンポジウム「ライブドアによるニッポン放送買収問題をどう捉えるか」では、中島洋氏(国際大学GLOCOM主幹研究員・教授 日経BP社編集委員)、篠田博之氏(「創」編集・発行人)、中林美恵子氏(ニュースキャスター 元米上院補佐官)、岸本周平氏(国際大学GLOCOM客員教授)、宮台真司氏(社会学者)、山本一郎氏(切込隊長 イレギュラーズアンドパートナーズ代表)といったパネリストが今回の買収劇をどうとらえるべきか、自身の意見を語った。
岸本氏を始め複数のパネリストがニッポン放送買収問題の感想として述べていたのが、「さまざまな問題を提起したことには感謝するべき点がある」ということだ。
「(マスコミの論調は)ライブドア側は“会社は株主のもの”、フジサンケイ側は“会社は社員のもの”だったが、私にはフジサンケイ側の主張は“会社は経営者のもの”であるとしか思えなかった」(岸本氏)
「企業価値の向上という目的に合致すれば、買収の可能性はあったのでは。ただ、その“企業価値の向上”についての考察が足りなかったのではないだろうか。インターネットと通信の融合と言うだけでは説得力がなく、単純な結合では成果(企業価値の向上)は出ない」(中林氏)
岸本氏は「会社とは何か」、中林氏は「企業価値とは何か」といった点を改めて考えさせる事件であったと問題を振り返る。また、篠田氏は「ライブドアと楽天がプロ野球参入を目指した際には、プロ野球という仕組みの空洞化を感じさせたが、今回の件では、メディアという仕組みの空洞化を感じた」とメディア論としても今回の問題をとらえる必要があると指摘する。
「メディアそのものが転換期にあることは、携わるものすべてが感じていたことかもしれない。ただ、堀江氏のいう“ネットと既存メディアの融合”は全体像が何も見えないままだった。情報を一度吸い上げ、それを整理(編集)するという既存メディアの形に彼は古さを感じていたのかもしれないが……」(篠田氏)
堀江氏の行動を「何が目的だったのか分からない」と切って捨てたのは山本氏だ。
「(ニッポン放送株の)35%取得を公言せず、過半数を超える51%までもっていけば買収に成功したはず。どうしてメディアの買収を志したかよく分からないし、本人に聞いてもよく分からない。スリルを求めて買いに入ったという側面が強いのではないか」(山本氏)
山本氏は今回の問題について、ビジネス論やメディア論から一歩離れたところから考えることも必要に感じたという。
「報道やメディアが、国家にとってどのようなものであるかを明文化しておく必要があると感じた。これまでの経緯を見ると、日本はメディアも統治の1つであるというヨーロッパ的な考えが強いように思うが、そうした現状の中、“私企業だから”と政府がメディア企業に対して消極的な態度を示したのは失策ではなかったか」(山本氏)
宮台氏は「ホリエモンが開けた穴をどう扱うか。それが一番の問題だ」と述べ、指摘された諸問題をいかに今後へつなげるかこそが大切であることを訴える。
「地上波の番組は1時間1000万円なんて金額で作られているが、インターネット放送が普及し、より低価格な番組作りをせざるを得なくなった時、制作者サイドはどうするのか。既得権益者は放送から発生する利益を守ることしか考えていないし、既得権益であることに気がついていない人すらいる。そうした問題を気づかせるという効果が今回の問題にはあった」
「インターネットはすべてにおいてダウンサイジングをもたらす。どのような方向に進化していくかは分からないが、既存メディアのライバルになることは間違いない。今後の課題とすべきはビジネスモデルではなく、原論の自由が担保される空間が維持されるか。わたしにとってはそれが一番の問題だ」
「インターネットと放送の融合という言い方にはスリリングな響きがあって、既存権益者には怖いかもしれないが、これまでと違うことをすればよいだけ。模索し、新しいビジネスを始めればいい。いままでと同じやり方を前提にするから悲観的になるのであって、ホリエモンが開けた穴を有効に使うことを考えた方がいいのではないだろうか」(宮台氏)
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