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ソニー・西谷氏に聞く「次世代DVD統一交渉の顛末とこれから」緊急インタビュー(2/4 ページ)

» 2005年05月27日 20時14分 公開
[本田雅一,ITmedia]

かみ合わない議論

 西谷氏の言うようにソニーそして松下は、これまで3年間活動してきたBDを捨てる覚悟だった。東芝と規格統一を行うからには、互いの持つ技術要素を並べより良い要素があれば取り込む必要がある。信号処理やドライブに対する要求仕様、あるいはディスクの物理的な精度や論理フォーマットなど、BDFあるいはBDAで検討し決定したものを変更すれば、これまで開発してきた成果もやり直しだ。

 このため新規格とならざるを得ず、そのために新団体を設立することも視野に入れていた。ソニー・松下はそれぞれに、BDに参加する主要な企業に対しては、交渉初期の段階から、統一交渉中であること、統一規格になれば新しいものになる可能性が高いことなどを伝えていた。

――BDAの主要メンバーの中にはドライブレベルのOEM出荷が近い企業もありました。彼らは統一交渉開始の連絡に対し、どのような反応を示していましたか?

 「0.1ミリ構造を了解してくれるならば、新しい規格としても話を進めて良いと、他BDA参加企業とは話していました。0.1ミリ構造は、これからのハイビジョン時代を迎えるに当たって、光ディスクに必要な容量を満たす唯一の選択肢です。それさえ守れるのであれば、ディスク基本構造を統一して、その土俵の上で競争した方がいいと。長い時間をかけて積み上げてきたBDの技術仕様をバラす覚悟、腹は決まっていました」

――東芝側は交渉決裂の理由について「0.6ミリを諦める前提条件として、0.1ミリ採用のメリット、あるいは大容量がユーザーにいかに必要なものなのか、何年ぐらいにはスーパーハイビジョンが必要だとかいう“凄い話”や、製造面で解決できる見込みを示す証拠を提示してくれると思っていたが、ソニー・松下はいずれも説得力のあるデータを示さなかった」としていますが。

 「自分たちとしては、外部も十分に納得してくれるだけの材料、データは出したと思っています。確かに彼らとしては不満な点もあったのかもしれませんが、これからの10年に対して新しい技術をと考えて開発を続けているものと、今すでに存在しているものとを比較しても、なかなか同じ土俵で比べることはできません。独SINGULUS TECHNOLOGIESと共同開発している複製ラインが、ROM複製装置の最初の製品になりますから、その情報はもちろん出していました」

――東芝は常々、自分たちも0.1ミリ構造で開発してきたことがあり、その難しさはよく知っていると話していますが、映像パッケージに使われるROM規格の話にしかなりません。この部分で議論に大きく隔たりがあったのでは?

 「技術論の展開で最後に行き着くのは、常にROMディスクの複製コストでした。しかし、ビデオレコーダーもあればPC向けドライブも必要です。次世代光ディスクは映画のパッケージ販売だけに存在しているわけではないのですから。単純に容量が大きい方がいいかというのではなく、想定しているニーズを満たすには必要な容量ですとお話ししたのですが、かみ合いませんでした」

 「たとえば『様々なスポーツ放送のパターンを示し、世界の様々な地域で使われているデジタル放送のビットレートから換算すると、ストリーム記録では足りなくなる』と話しても、聞き入れてもらえませんでした。確かにDVDにおいて映像パッケージの市場は大きなものになっていますが、光ディスクを用いた産業の一部分だけを取り出して議論されると、話はまとまらなくなります」

 「次世代光ディスク統一の席に臨んだ企業は皆、光ディスク産業の発展を考えていると信じています。しかし東芝との統一交渉では録画の議論の時に、たびたび『HDDがどれだけ今後のデジタル家電に有益か』という話になってしまいました。もちろん、HDDは重要なコンポーネントですが、HDDと光ディスクは排他な関係ではありません。それぞれ、得意分野が違いますし、どのような形式が使いやすいのかは市場が決定すべきでしょう」

 光ディスク技術を映像パッケージ販売だけでなく、ハイビジョンのストリーム録画、カムコーダなど多目的に使うことを前提に話をするソニー・松下と、DVDビデオのHD版として映像パッケージに重きを置き、他の用途はネットワークとHDDで十分とする東芝では、長い時間をかけた議論も空回りが続いたようだ。

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