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IP方式で地上波が再送信されるまでの道のり西正(2/2 ページ)

» 2005年06月17日 10時31分 公開
[西正,ITmedia]
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IP方式に至る最後の課題――アライアンスの形

 IP方式で地上波の再送信が認められない理由として、著作権問題の処理が難しいと説明されることが多い。だが、もう1つ、各家庭へのアクセスラインを通信事業者に握られることによって水平分離の形になってしまうことに、テレビ局側が強いアレルギーを感じているという理由がある。

 ただ、デジタル化を進めていく上では、民放であってもNHKと同様にユニバーサルサービスを心がけないわけにはいかない。水平分離だろうと垂直統合だろうと、実際問題として、リーチを長くする方が優先されることは間違いないので、既にIP伝送を頭から否定してかかる状況ではなくなっている。

 となれば最終的には知的財産権を守ることが強く求められることになるので、セキュリティーの問題をどう考えるか、すなわちDRM(デジタル著作権管理)の問題をどうするかということが鍵を握ることになるだろう。

 いずれにせよ、テレビ放送がIP方式で同時再送信される日が来ることは間違いない。放送と通信では文化が大きく異なるとは言え、いわゆる一本の伝送路上に乗っていくのは、もはや時間の問題だと筆者は考えている。テレビ局の側も、その点については十分に理解している。

 その時には権利問題もクリアにされているであろうし、もちろん技術的にもクリアにされているだろう。また、制度上の問題もクリアされているに違いない。ただ、そうなった時に浮かび上がってくるのは、放送業界と通信業界のアライアンスの形が、さまざまな姿で出てくるであろうということだ。

 アライアンスが不可避となった際、どちらが主導権を持つのかということは、非常に重要な経営課題になってくる。テレビ局の経営者としては、ある意味、護送船団行政で守られて利益が確実に出ているうちに、その体制を整備しておこうというのが本音の部分だと考えられる。

 そうすると、今のように収入も大きく利益率も高い状況の中で通信事業者と合併すれば、お互いの企業価値評価で言えば、一般に放送の方が高く評価されるだろう。例えば6対4の比率でテレビ局側の方がイニシアティブを取れることになるわけだ。

 一方、通信事業者の方は逆に、ともかく早く成長していき、自らが6対4の6を取れるような形でアライアンスを組みたいと考えるだろう。

 つまり本質的なところで言えば、今まさにテレビ局側は、いずれ来る時代までの間に自分たちのアドバンテージと権利を守っていくために戦っているに過ぎないのであって、別に放送事業者と通信事業者のアライアンスを嫌がっているわけではないのである。

 同じく通信事業者と言っても、NTTの場合には法改正しなければ放送事業との統合はできないが、テレビ局とのマージを実現する事業者は、必ずしも自分たちで通信インフラを持っているとは限らない。むしろ、そのインフラを借りてビジネス展開を行っている事業者になる確度は高いだろうと思われる。もちろん、そうした動きは今は水面下のものでしかなく、当面のところ表面化してくる様子はないが、いずれそう遠くない段階でそうした事態に至ると筆者は見ている。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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