テレビとネットの違いは、30センチの文化と3メートルの文化の違いであると言われる。もちろん極論だろうが、テレビと向き合う時と、PCと向き合う時とでは姿勢も違えば気持ちも違うことをうまく表している。
しかし、技術が進化するスピードが思いのほか速く、ユーザーの利便性という視点から見れば、テレビとネットの融合はもはや不可避になりつつある。確かに著作権問題など未解決の問題はある。だが、その解決が大変だということを理由にして、時代の趨勢に逆らっていくことは、むしろ不自然であり不可能でもある。ほんの数年後には実現されうる現象ならば、むしろ積極的な対応を図っていくことが必要だろう。
実際、官民あげての試みとして、テレビを家庭内の情報端末の中核にしようという考え方もある。例えば総務省では、自治体サービスなどをネット経由で配信し、テレビ画面で表示できるようにする、いわゆる“利活用”と呼ばれるスタイルを、関連事業者の合意の下で進めている。
そういう視点に立って、改めてテレビとネットとの関係を考えてみると、両者が同居できるスタイルがどういうものなのかが自然と明らかになってくる。例えば、大画面のテレビでメールを書こうと考える人は少ないだろう。クリエイティブな作業やアクティブな作業を行うに当たっては、これまで通りPCを使った方が便利だという考え方は揺るがないだろう。
とはいえ、インターネットの機能の中にはテレビ画面上で楽しむことができるものも決して少ないわけではない。ただ、テレビ画面上でインターネットを使うとしたら、そこで流れる動画を視聴するといったカウチポテト的な楽しみ方が主流になることは間違いない。
テレビ放送とネット情報が混在表示ないし同時表示されることの問題点も銘記しておく必要はあるが、両者の機能が本格的に“同居”することになるとしたら、それ以前に注意を喚起しておくべき点がある。
放送局側として、テレビとネットが1つのテレビ画面上で同居することになって最も恐れるのは、安全性の問題である。テレビとネットが融合することになれば、新たに色々なサービスも期待できるが、一方でネット上の各種の攻撃など、さまざまなセキュリティ上の危うさに対する懸念も生じる。テレビの表示機能にまで影響を与えるようなウィルスがばらまかれる可能性もないわけではない。
家電メーカーや通信キャリアは、こうしたリスクを、あらかじめ起こりえるリスクとして対処する必要がある。テレビ上でネットサービスを受けられる環境を構築する際、システム側で悪質なウィルスをブロックする体制をきちんと整えておくといったことである。利便性の見地からテレビとネットの融合させようとするならば、テレビ局や家電メーカーといったテレビ側では、考えてもいなかったようなトラブルが発生するのは避けたいはずだ。
ワンセグ放送の規格を決める際にも問題になったのが、テレビ映像とネットの混在表示をどうするかといったことであった。
簡単に言えば、携帯電話の画面が上下に二分割される中で、上画面でテレビ放送が流れ、下画面はデータ放送が表示されるという形に決まったのだが、下画面にいきなりネット情報が表示され、上のテレビ映像と下のネット情報が同時表示される形は、放送局が拒否したのである。
確かに、テレビ画面の映像で災害報道など流れているとき、下の画面上で「この災害が、もうすぐここでも起こるぞ!」などいった類の無責任なユーザーの書き込みが表示されては、テレビ放送の災害情報が無責任な書き込みによる混乱をあおることにもなりかねない。そこは了解しがたいということはよく分かる。
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