マイクロソフトは7月12日、Windows CE 5.0ベースの車載情報端末向けのソフトウェアプラットフォーム「Windows Automotive 5.0」を発表した。カーナビ画面のルック&フィールを容易に作り替える「AUI」(Automotive UI Toolkit)などが特徴。その車のイメージやインテリアデザインに合わせた画面作りを提案する。
発表会で挨拶に立った米Microsoft Automotive事業担当副社長のトッド・ワーレン氏は、「カーナビ先進国である日本の市場要求に応えるため、日本の開発チームが主導して開発した」と日本市場へのコミットを強調する。事実、カーナビの世界市場は2005年で約620万台。その半分強に当たる340万台が日本向けだという(パイオニアの調査による)。
「とくに新車販売におけるメーカー純正カーナビの装着率は年々上がっており、2004年はライン装着とディーラーオプションを合わせて装着率は67%に及ぶ。既にカーナビは、エアコンなどと同じ“車の基本機能”となった」(同社オートモーティブビジネスユニット、シニアアカウントマネージャーの清水尚利氏)。
マイクロソフトは、1998年の「Auto PC 1.0」以来、Windows CEベースの車載情報端末向けソフトウェアプラットフォームを提供してきたが、当初は米国市場を意識した仕様だったこともあり、ごく限られたメーカーしか採用しなかった。しかし前バージョンまでの「Windows Automotive」は、国内メーカー7社が採用(アルパイン、クラリオン、ケンウッド、鳥取三洋電気、パイオニア、松下電器産業、三菱電機)するなど、着実に浸透しつつある。
「細かい数字は出せないが、HDD搭載ナビに限れば、Windows Automotiveのシェアはかなりのもの。ITRONや組み込みLinuxといったOSはあるが、開発キットを含むプラットフォームとして提供されているのはWindows Automotiveのみ。競合といえるものはない」。
さらに清水氏によると、DVDナビからHDDナビへの移行や携帯電話のハンズフリー通話が、追い風になっているという。もともとWindwos Automotiveは、競合OSに比べてOS自体のサイズが大きく、起動の遅さやメモリ容量がネックになっていたが、カーナビがHDDを搭載するようになって容量の問題はクリア。そして携帯電話との連携を考慮したデータ通信機能は、「各メーカーが最初から作るより、既に豊富なミドルウェアを持つWindows Automotiveを使うほうが、早く、低コスト」(同氏)とアピールする絶好の機会になっているという。
Windows Automotive 5.0は、Windows CE 5.0ベースのリアルタイムOSと、その上で動く「Automotive Components」、各種開発ツールなどで構成される。バージョン5.0では、画面のルック&フィールを容易に作り替えることができる「AUI」(Automotive UI Toolkit)の強化と、システムリソースを検証する「AST」(Automotive System Tools)の追加が二本柱だ。
AUIは、各アプリケーションのUI(ユーザーインタフェース)描画を担当する。このため開発者は、アプリケーションごとにUI画面を作り込む必要がない。またPC用ソフトでお馴染みの“スキン”を使い、アプリケーションのプログラムを変更せずに画面イメージだけを刷新できる。たとえばウッドパネルを備えた車に合わせ、木目調のスキンを作成すれば、車のインテリアに統一性が生まれるというわけだ。
マイクロソフト・プロダクトディベロップメント・リミテッドITS戦略統括部の平野元幹統括部長は、「最近のカーナビは、7〜8型の大型スクリーンを搭載し、インテリアの中でも重要な位置を占める。とくに高級車であれば、画面内のUI(ユーザーインタフェース)にも相応のデザイン性が求められる」と指摘する。純正品やディーラーオプションとして販売するカーナビを開発する場合には、AUIが魅力的なフィーチャーとなるだろう。
また、AUIは画面サイズの違いも吸収するため、8インチの大型画面でも、1DINサイズの筐体に収まる小型液晶画面でも、やはりプログラムに変更を加える必要がない。「開発期間を短縮しながら、メーカーは複数のモデルを並行して開発できる」(平野氏)。このほか、アンチエイリアスフォントや各種フィルタ機能などもサポート。Direct 3D対応グラフィックチップのハードウェア処理も利用できるようになった。「発熱の問題があるため、最新のGPUを使うことはできない」ものの、従来より高品位なグラフィックを描画しながらCPUの負担を減らすことができる。
一方の「AST」(Automotive System Tools)は、システムリソースの検証ツールだ。カーナビのような CPUパワーやメモリなど限られたリソースの中で“やりくり”しなければならず、従来は各メーカーの開発者が個別にシステムをチューニングすることで対応してきたという。
ASTはリソース配分を自動化してくれるものではないが、どのプログラムの、どのスレッドが、どれだけのリソースを消費しているかを一覧表示してくれる。「カーナビでは、常時200ほどのスレッドが動いている。遅延時間などバランスを検証するにはASTのようなツールが必要不可欠」(平野氏)。開発者は、ASTの画面を参照しながら、たとえばメディアプレーヤーなどリアルタイム性が求められるソフトにリソースを優先的に割り当てるといった調整を行えばいい。
「カーナビの高性能・高機能化競争は一段落し、信頼性や品質感、使いやすさに重点が移った。Windows Automotive 5.0は、成熟期に入りつつある車載情報機器の開発ニーズを捉え、開発者の負担を軽減する」(平野氏)。なお、Windows Automotive 5.0対応製品は、今後1年程度で市場に登場する見通しだ。
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