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ケーブルテレビ事業、強みの生かし方西正(2/2 ページ)

» 2005年07月14日 19時15分 公開
[西正,ITmedia]
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 これからはトリプルプレイの時代だということで、放送、ブロードバンド、電話がセットで売られるようになりつつあるが、それでもなお、今の段階ではケーブルテレビ事業者は、放送と通信の違いについて再認識しておくことが肝要だと思う。

 大手通信事業者ともなると、提供するサービスでライバルに差をつけることが難しいこともあり、どうしても価格競争に陥っていくことは避けられない。その時、ケーブルテレビ事業者が価格で対抗していったとしても、勝ち目があるとは思えないからだ。

 ケーブルテレビ事業者は、放送サービス、特に多チャンネル放送サービスが説明商品であることを認識し、こまめに説明して回れることを強みとすべきだろう。放送にはエンターテインメントの色彩が強い。エンターテインメントは面白いとか楽しいと感じることがその価値を決めるのであり、価格は安いに越したことはないが、選ぶ際の絶対条件ではない。

 典型的な例が、東京ディズニーランドの成功である。ディズニーランドで遊ぶのには、それなりのお金がかかる。さらに混雑していて、待ち時間も長い。一方、地方公共団体が運営したテーマパークは、利用客が集まらずに破綻してしまうケースが多い。お金や待ち時間のことだけを問題にするならば、ディズニーランドの方に勝ち目があったとは思えない。ディズニーランドはリピーターが多いことが繁盛の理由とされるが、ということは、2度目以降に行く人は、お金も安くないし、待ち時間も長いことを覚悟の上で行くということである。

 それがエンターテインメントの価値というものである。放送にもそうした側面がある。特に多チャンネル放送はそうだろう。大手通信事業者は、低価格化と利便性を武器に売り込んでくるだろうが、低価格でもなく利便性が必ずしもよいとは言えないディズニーランドが繁盛している理由が分かれば、元々放送事業としてスタートしているケーブルテレビ事業者の方が地元の顧客の心をつかみやすいと言えるのではなかろうか。

重要なサポート体制

 通信サービスの多くは、基本的には売り切り制である。もちろんカスタマーセンターやコールセンターは完備されているが、あくまでもユーザー側がアクセスしなければならない構図になっている。

 地域密着を誇るケーブルテレビ事業であれば、前述したように、既に加入してくれている世帯に対してもアフターサービスを手厚くすることができる。抱えている顧客の数が違うと言ってしまえばそれまでだが、大手通信事業者とケーブルテレビ事業が競合してくるという事態になれば、アフターサービスの手厚さは強力な武器になる。

 日本は今後、本格的な高齢化社会を迎える。にもかかわらず、“たかが電話”も、“たかがテレビ”も、機器の操作は複雑化する一方で、十二分に使いこなすことなど最初からあきらめられてしまっているのが現状である。壊れたわけでもない以上は、センターに連絡をしても、「お手元のマニュアルをご覧下さい」で終わってしまう。

 マニュアルも親切なのか不親切なのか、何から何まで書かれた分厚いものばかりである。たかが電話、たかがテレビを使うのに、分厚いマニュアルに挑戦しようという気になるとは思えない。分厚いマニュアルが用意されていること自体が、実は不親切の表れとすら言えるのではなかろうか。

 使い方が分からない時、気軽に相談できる事業者がいたら、そちらの方が付き合い易いに決まっている。使い方が分からないことは恥ずかしいことでも何でもなく、当たり前のことなのだと言って、手ほどきをしてくれる事業者と解約する人は少ないはずだ。ここでも価格競争とは次元の違うサービスのあり方が見出すことができる。ケーブルテレビ事業者がそうした真の意味の地域密着サービスを徹底し始めたら、たとえ規模的には遠く及ばない大手事業者であっても、その牙城を切り崩すことは難しいはずだ。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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