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急速に拡大するVOD事業の夢と現実(前編)小寺信良(2/4 ページ)

» 2005年08月01日 11時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

取り払われてゆく壁

 そもそもこうしたテレビ局の動きの発端は、テレビドラマをインターネットでストリーミング配信する場合の著作権使用料金について、今年3月にコンテンツの利用者9団体で構成される利用者団体協議会と、コンテンツを保有・製作する著作権関係団体の間で、具体的な使用料額が決まったことに端を発する(PDFファイル)。具体的には各団体に対して、コンテンツからの収入広告料収入から、一定のパーセントで使用量を払うというものである。

 放送コンテンツをIPベースで配信するという事業は、通信なのか放送なのかという議論を含め、権利関係が非常に複雑であるために長らく頓挫していた。これまでのVODが、配給会社や制作会社が権利を持つ映画や音楽PVといったコンテンツ中心となっていたのには、それなりの事情があったわけである。

 この権利問題については、2002年2月に経団連が設置した「ブロードバンドコンテンツ流通研究会」という組織が、長い時間をかけてとりまとめを行ってきた。筆者も2003年にこのコラムで、当時の権利処理の難しさを取り上げている

 このときに同研究会の方のお話しをうかがったりしたのだが、当時はまだ「権利者団体と利用者団体がようやく同じテーブルについてもいいよ、というところまで来た」というレベルであったことを思い出すと、交渉開始から条件付きの合意に至るまで3年という月日がかかったのもうなずける。

 だが、権利関係がもっともやっかいなドラマ配信についての条件で双方の合意が得られたことで、今後はほかのコンテンツの権利処理にも弾みがつくだろう。そのほかのテレビ放送らしいコンテンツと言えば、バラエティやスポーツなどが思い当たる。

 各局とも配信予定のコンテンツはいろいろ考えているだろうが、案外スポーツは芽があるのではないかという気がしている。そもそもスポーツの試合のような大がかりなイベントを撮影して、そのまま生で完パケ化できるノウハウを持つ組織というのは、テレビ局ぐらいしかないのである。

 スポーツが好きな人は、試合の結果だけが知りたいわけではない。試合の内容が見たいはずだ。ところが試合をやっている時間に帰宅できなかったり、録画設定をする時間がなかったりするのが現実ではないだろうか。そういう人のために、夜中のスポーツニュースが存在するのである。

 最近は巨人戦の視聴率低迷が騒がれているが、それは野球が好きな人が減ったわけではないだろう。まあ巨人ファンは減っているのかもしれないが、リアルタイムで野球中継を見る、いや野球に限らず、ゴールデンタイムにテレビでスポーツを見ながら時を過ごすというライフスタイルが、時代に合わなくなってきているのである。

 これがVODで見られるのであれば、うれしい人も多いはずだ。自分で録画設定する必要もなく、いつでも自分の都合のいい時間に見ることができて、しかも早送りや巻き戻しも自由というVODのメリットが享受しやすい。

新たに存在する縛り

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