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コラム
» 2005年09月05日 08時30分 公開

小寺信良:誰も「本物のハイビジョン」を知らない (3/4)

[小寺信良,ITmedia]

 主流であるHDCAMに絞って話を進めよう。この1440という数字がどこから出てきたかというと、縦を1080としたときに4:3で横の比率を求めると、1440になるわけである。これは画角が4:3のSDフォーマットにダウンコンバートするときなどの回路上の便宜を計った、ある意味内部の勝手な都合とも言える。

 このテープに記録された映像を、VTRからHD SDIで出力するときは、元の1920×1080に拡大している。従ってVTRは、いかにも1920×1080の映像をそのまま記録しているかように見えるのである。

 テープ編集というのは、基本的にテープダビングを繰り返して行なうわけだが、縮小した映像を拡大して出力、それをまた縮小して記録、それをまた拡大して出力、それをまたしゅ……えーいめんどくさい。とにかく何回もダビングしていくと、限りなく拡大と縮小を繰り返していくため、画質が劣化していくのである。

 番組をテープ編集する場合、通常1度の編集で放送に流れることなどない。制作過程で少なくとも4〜5回はダビングによる編集がおこなわれる。このためオリジナルソースと比べると、目で見てはっきりわかるほど、画質は劣化している。

 実はSDTVの頃は、このような制作プロセスでも映像が劣化することはなかった。SDのデジタルVTRである、D1やD2、Digital βcamなどはダビング特性がよく、ほぼ無劣化だったのである。

 現場ではみんなその感覚に慣れていたものだから、いざHDにシフトしたら「なんじゃこりゃ」ということになった。だがこれまでの制作プロセスですべての工程が進行していたわけだから、いまさらダビングは3回までな、と言われたって不便な方向へは後戻りできないのである。

 ダビング特性を改善したフォーマットとして、ソニーは2003年にHDCAM SRというフォーマットを開発した。フル解像度のHD信号をMPEG-4で録る。ただこの方式には、カメラとVTRが一体化した、いわゆる「カムコーダ」がない。スタジオワークでは有用だが、少なくとも現行のHDCAM VTRの元が取れるまでは、とても移行できないだろう。

 ダビングで劣化したと言えども、一応HDCAMの映像出力はフルHDになるので、約140Mbpsのビットレートを持っている。だがさらに放送局ではその映像出力を、MPEG-2の16Mbpsとか25Mbpsとか2passでもなんでもなく、リアルタイムでエンコードしながら送出するわけである。画質など良かろうはずがない。

 そういう事実を知っていると、「美しいデジタル放送の画質をそのまま〜」などというキャッチコピーを見るたびに、尻のむずがゆい思いをする。そしてこの事実を知ってしまった皆さんも、今後は尻のむずがゆい思いをすることになるのである。

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