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コラム
» 2005年09月05日 08時30分 公開

小寺信良:誰も「本物のハイビジョン」を知らない (4/4)

[小寺信良,ITmedia]
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誰もインターレースで見ていない

 さらにもう一つ、今度はプロとコンシューマ共通の根の深い問題を提起しよう。1080iがインターレース方式であることは既に述べた。インターレースとは、1枚の映像をスダレ状に2枚に分けて、時間差攻撃で見せていく方法である。

 このインターレース画面というのは、今のところブラウン管でしか見ることができない。液晶やプラズマなどのフラットディスプレイ、LCOSやDLPなどの投影型デバイスなどは、すべてプログレッシブ表示が基本となっている。

 今後コンシューマでデジタルテレビの普及がどんどん進むと、放送自体は1080iというインターレース方式なのに、視聴者は誰もインターレースで映像を見ていないという現実がやってくる。問題は、インターレースからプログレッシブの補間、いわゆるI/P変換が、すべて各テレビ任せになっていることである。

 既にプログレッシブ型のテレビをお持ちの方は、テレビを見ているときに動きの速い部分で横縞が気になったことはないだろうか。これはI/P変換特有のエラーである。インターレースのブラウン管で見ていればまったく問題ない映像も、プログレッシブ型のテレビではノイズとなってしまう。

 このフラットディスプレイの問題は、プロでも起こりうる。今まで放送用のモニターというのはブラウン管だったのだが、ソニーを始めとする放送用モニターの製造メーカーがブラウン管の製造を止め、液晶などのパネルへとシフトしつつある。だがそうなってくると、放送フォーマット自体はインターレースなのだが、映像制作の現場でさえインターレースでは映像が見られない、ということになってくる。これはゆゆしき問題だ。

 映像制作の現場では、そろそろHDのノンリニア編集システムが実用的な価格になってきたため、おそらく今後の主流はパソコンベースになっていくだろう。だが元々パソコンも、プログレッシブなシステムである。ここにインターレースの映像を持ち込むことはできるが、一時的にしろプログレッシブに変換してしまうので、最終出力時にインターレースに戻すときに、フィールドの順番が逆になってしまうことが起こりうる。(ちょっと難しいのでわかる人にだけ説明するが、映像が1ピクセル垂直方向に動いただけで、フィールド順が逆になる)

 ブラウン管のモニターが無くなってしまうと、その間違いを発見する手だてが無くなるのである。実際に上記の問題は今も起こっており、たまにブラウン管のテレビで見ていると、フィールド順が逆になったままで誰も気付かずに放送しているコマーシャルが結構ある。フラットディスプレイのI/P変換でも、何らかのエラー画像となるだろう。

 結局作り手も見る側も、ちゃんとした1080iのHDTV品質の映像など、誰も見たことがないのである。まさに名ばかりの1080iシステムで、今後デジタル放送や次世代DVDの画質論議を進めていっていいのだろうか。筆者にはそれが、とても虚しいように思えてならない。


小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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