いよいよハイビジョンが本格普及期を迎えた。
順調に普及が進むBSデジタル放送に加えて、地上デジタル放送もスタート。110度CSデジタル放送でもハイビジョンが始まった。ハイビジョン対応の薄型テレビは依然として好調な売れ行きを示し、ブラウン管からテレビ主役の座を完全に引き継いでいる。家庭用ビデオカメラでもハイビジョン対応モデルが登場し、PCでもバイオ type Xのようにハイビジョン表示&録画ができるモデルが出てきた。
録画機器ではシャープから実売20万円台のBlu-rayレコーダが発売され、昨年発売したソニー、今年発売した松下らとともにBlu-ray製品も揃ってきた。ライバルのHD DVDも、従来のDVD映像を収められる2層ディスクを開発するなどして、DVDの時と同じくROMからのハイビジョン普及を図ろうとしている。来年2005年には、ハイビジョンに向けたトレンドはさらに明確なものになるだろう。
デジタルメディア評論家の麻倉怜士氏に最新のAV製品情報、独自の分析、インプレッションなどを聞き出す月イチ連載『麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」』。2004年最後の回は「ハイビジョンの本質」をテーマに語ってもらった。
――今回は、ハイビジョンの本質論を語ってもらおうと思います。
麻倉氏 : 今、ハイビジョンの環境が整い始めました。放送で先行したBSデジタルは4年目に入り、当初の目標だった「3年で1000万世帯」はムリでしたが、11月末現在で700万世帯を超えるなど順調に普及しています。メディアは放送とともにパッケージも必要なのですが、“ハイビジョンメディア”であるBlu-rayやHD DVDの本格普及も来年から始まります。もちろん、ハイビジョン対応の薄型テレビやプロジェクターも好調ですし、ハイビジョンへの流れはさらに拍車がかるでしょう。
――いまや「ハイビジョン」は一般名詞のようになっていますね。
麻倉氏 : ハイビジョンと一口に言っても、実はひじょうに奥が深いのです。私は「ハイビジョン」には特別な意味があると思っています。世界的にみて、ハイビジョン放送を行っている地域は米国、日本、韓国、オーストラリアで、欧州がこれからという状況ですが、実は、ハイビジョンという言葉は日本特有のもので、海外ではHigh Definition TeleVision(HDTV)と呼ばれています。
――呼び名は違いますが、解像度やアスペクト比など表示スペックの主な仕様はほぼ共通ですよね。
麻倉氏 : 確かにそうですが、欧米でいうHDTVのイメージは、おおざっぱにいうと「解像度が増えた」という感じ。ですが日本のハイビジョンという言葉には“主張”があるのです。
――それはどんな主張でしょうか?
麻倉氏 : 日本のハイビジョンは“高解像度”プラス“高臨場感”という意味があります。この独自ハイビジョン文化に貢献したのは、紛れもなくNHKの放送技術研究所ですね。次世代放送の内容を決める上で、立体に行くか、高精細にいくかという選択肢を経て、高精細なハイビジョンを選んだのです。
単に解像度を上げるだけでは、次世代の放送とはいえないでしょう。そこで情報量の増加にあわせて“臨場感を体験できるテレビ”というものを発想したのです。つまりハイビジョンは、初めにスペックがあったわけでなく、“感覚的なもの”を実現するためにスペックをつくるというユースモデルからスタートしているのです。
――なるほど、臨場感を得るための高精細なのですね。
麻倉氏 : 従来の「テレビジョン」は、遠くの映像を近くに持ってくるという“情報を伝達”するものでした。TELE+VISIONですね。ところが「ハイビジョン」は、お茶の間が“その場”になるような臨場感を目指したのです。新しいものを受け入れる時には、うわべだけみるのではなく、その成り立ちを理解することが大切。そこを考察すると新しい“次代”が見えてくるんですよ。
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