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ハイビジョンの本質麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/4 ページ)

» 2004年12月28日 12時00分 公開
[西坂真人,ITmedia]

――ハイビジョンのスペックは、どのような経緯で決まったのでしょうか。

麻倉氏 : 従来のテレビの4:3というアスペクト比は、当時の映画を模したものでした。そして映画は、テレビに娯楽の座を奪われていったのです。そこで映画は、映画ならではの魅力をつけるためにビスタサイズやシネスコサイズといったワイドスクリーンを採用し、お茶の間のテレビでは得られない臨場感をアピールしてきました。同様に臨場感を目指したハイビジョンが、アスペクト比16:9の横長画面を採用したのも、うなずけるでしょう。

――なぜ、ワイドスクリーンだと臨場感ある映像になるのでしょうか?

麻倉氏 : これは有名な話ですが、水平線に船が浮かんでいる静止画像を被験者に見せて、その映像を右や左に傾けると、ある角度で被験者が無意識のうちにカラダを同期させるのです。それを調べたら30度の画角からカラダを傾け始めることが分かりました。その画角30度を実現するためには、横長画面が必要だったのです。

 こうしていろいろな実験が行われた結果、30度の画角を得るためのワイドスクリーンは16:9のアスペクト比(もともとは5:3でした)で、視聴距離は画面の高さの3倍以内ならたっぷりと臨場感を感じられるということも分かりました。このセオリーはいまだに健在で、薄型テレビでも画面の高さの3倍が最もハイビジョンをヴィヴットに、プレゼンス豊かに美しくみることができるのです。

――従来のNTSC方式との違いをもう少し詳しく教えてください。

麻倉氏 : NTSCは7倍離れたところで画角10度で視聴することを前提にしています。つまり小さい画面サイズで見るように作られた規格だったのです。

 “テレビジョン”なのだから遠くで起きている情報が見られればいいものだったので、情報が分かればよかった。視聴距離が遠いのは、画が粗いので離れてしか見られなかったからです。詳しく言うと視力1.0の人が、525本の粗い走査線の存在が分からないような距離まで離れて見る規格なのです。

 一方のハイビジョンは、画面高さの3倍の距離で視聴する。このパラメーターがあるから、高精細のハイビジョンが必要だった。臨場感を得るためには、画面に近づかなくてはいけない。しかし、従来の画面仕様では粗いので、ここで初めて高精細というキーワードが出てきたのです。近くで見るのですから、解像度が必要だった。だから、走査線は1080本(有効、当初は1035本)になったのです。

――まず「初めに高精細ありき」ではなかったのですね。

麻倉氏 : より臨場感を感じたい、迫力のある映像を楽しみたいという“感覚的・情緒的な切り口”で作られた放送フォーマットがハイビジョンなのです。それゆえに“ハイビジョンの本流”というべきコンテンツは、人の感覚や情緒に訴えるような内容であることが必要なのです。

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