人の心に訴える“モノづくり”を目指して、ソニーが2001年の5月に発足させた「QUALIA」プロジェクト。ハイクオリティ志向で技術オリエンテッドなこの高級製品ブランドが、今、終焉を迎えようとしている。
“エレクトロニクスの復活”を目指して先週ソニーが発表した新経営戦略の中に、QUALIAブランドの新規開発凍結が盛り込まれた。不採算の1つとして挙げられたQUALIAだが、果たして「人の心に訴える“モノづくり”」は間違っていたのだろうか。
長年のソニーウォッチャーでQUALIAユーザーでもあるオーディオビジュアル評論家の麻倉怜士氏が、今、QUALIAをあらためて総括。そこから新生ソニーの目指すべき方向性を探ってもらった。
──先日の会見でQUALIAは「ビジネスは継続するが、新規はストップ」という方針が示されました。これはQUALIA事業の撤退を意味するのでしょうか?
麻倉氏: はい。おそらく方向としては間違いないでしょう。私はソニー内部の人との交流も深いのですが、人の動きの気配がありました。また、QUALIAの広告出稿が計画されていたある雑誌に、急きょ広告掲載中止のアナウンスがきたことも確認しています。でも既存のQUALIA製品は継続との方針のようです。
──QUALIAの方向性は間違っていたのでしょうか。
麻倉氏: QUALIAはさまざまな評価ができるのですが、私は「大戦略は決して間違っていなかったが戦術に問題があった」という印象を受けてます。今のような水平分業の時代、同じような製品が氾濫する時代に、QUALIAのように究極のモノ作りを追求する思想は絶対に正しいのです。
アナログ時代は技術そのものが他社と差別化されており、垂直統合は当たり前の技術戦略でした。しかし、最近はIT型の水平分業が中心となり、誰でも同等の技術の製品を作れるようになったのです。その例証は数多くあります。携帯音楽プレーヤー1つを例にとっても、カセットテープやMDからHDDやフラッシュメモリを使うMP3プレーヤーとなって、新興の中小メーカーがわっと市場に参入しました。薄型テレビも同様です。次はDVDレコーダーかもしれません。
──水平分業によるIT化のデメリットとは?
麻倉氏: 水平分業には「スマイルカーブ」という、利益率が高いのがデバイスメーカー、逆に利益率の低いのがセットメーカーという法則があります。技術力を持たない企業でも市場参入にできるかわりに他社との差別化が難しくなり、結局はコスト競争となって価格下落に結びついてしまう。価格下落は消費者にはありがたい面もありますが、同じようなモノばかりが増えるという状況は決して歓迎できません。
ただし、デジタル時代の切り口は水平分業だけでなく、もうひとつ誰にもできないモノをデジタルで作るという方法もあります。ユニークな発想と最先端のモノ作りの精神をデジタルに生かしてハイエンド商品を作っていくことは、絶対必要なのです。その意味でQUALIAは、肝要なポイントをジャストミートで突いていたのです。
──ハイエンドの製品がなぜ必要なのでしょうか。
麻倉氏: 1つは「技術の揺籃」という意味合いがあります。通常の仕事の延長では“明日の種”は作りづらいのです。大胆な差別化をするためには、かなり飛躍的なテクノロジーが必要なのですが、それは一朝一夕にはできません。時間と人員とお金のリソースを費やして、ハイエンド製品を作ることで、飛躍的なテクノロジーも生まれてくるのです。そして、そのハイエンド製品からの“シャワー効果”が重要になってくるのです。
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