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「QUALIA」の総括麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/4 ページ)

» 2005年09月30日 11時53分 公開
[西坂真人,ITmedia]

──シャワー効果とは?

麻倉氏: 人を感動するモノは、上から下ろしてこないとなかなか出てこないという意味です。まずハイエンド技術を作ってそれを普及させていく。QUALIAのビジネスはまさにシャワー効果で、QUALIAによってソニー全体の技術水準を上げるという非常に技術戦略的な面を担っていたのです。それこそまさに、水平分業時代の中で垂直統合的なモノをつくれる揺籃だったはずなのです。

 問題は1996年以降、トップAVカンパニーから脱してITカンパニーに変わろうとしたことです。ITカンパニーになるためには垂直統合ではダメで水平分業体制を築かなければならない。1995年以前は、自然な意味で無理をせずにハイエンド製品ができてきたし、それがトレンドを作ってきました。そして人々にも支持されていました。それが1996年以降、インターネットやバイオなどIT傾斜が進み、それまで自然に身についていたハイエンド製品を生み出すソニーらしさが薄れ、IT的な要素を取り入れたことによって画一的な製品が多くなった。それに対するリアクションとして、自然ではなく人為的に作ったのが、QUALIAなのです。

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──ソニーの原点にもQUALIA的な考えはあったのですよね。

麻倉氏: 私が、かつてプレジデント誌で駆け出しの編集部員だった時に、ソニー創業者の盛田昭夫氏にインタビューしたことがあります。1975年のことでした。その中で盛田氏は「ブランドは意識的に作らねばいけない。そしてどんなことがあっても、自分のブランドを通すことが重要」と語り、米国でのあるエピソードを教えてくれたのです。

 1955年に盛田氏が米国でトランジスタラジオTR-52を売り込んでいた時に、米国の有名な時計会社「BLOVA社」から10万台のオファーが来たそうです。ただしそこにはSONYではなくBLOVAブランドで納入するという条件があったため、盛田氏はその契約を断ったのです。「あの時、私が目先の売上げだけを考えていたら契約していたでしょう。だが私は長期的にみて、ソニーのブランドを捨てるのは絶対得策ではないと考えたのです」と盛田氏は私に教えてくれました。

 そして今回のQUALIAにも共通する、ある重要なことを語ってくれました。

 「ブランドを確立するためには、信用を獲得することが重要です。そのためには販売店を選択することです。一流の商品を一流の店で売ってもらうことで、ソニーブランドの信用を高めることができるのです」

 つまり、しっかりした一流店で売ってもらうことで「あの高級店で売っているのはいいものに違いない」という、ユーザーへの意識的なシャワー効果があるというのです。こうしたハイエンドを大切にするという考えはそもそもソニーの原点なのですから、デジタル時代でも貫徹しなければいけませんね。

──ITカンパニー化を推進していた出井伸之氏がQUALIAを考えたというのも興味深いですね。

麻倉氏: 前述したようにQUALIA的なモノ作りの遺伝子がソニーにはもともとあったので、出井さんがQUALIAを考えたというのは、自然な成り行きです。私は以前、出井さんにQUALIAについてきいたことがあります。その中で出井さんは「1990年代以降、ベクトルをAVからITへとシフトしてIT化を進めてきたのだが、そのIT指向が効きすぎた」と語り、そのアンチテーゼとして、QUALIAを作ったと教えてくれました。規格化しがちな世の中で、感動する商品、独特の感覚を持つ商品が絶対必要ではないかと出井さんは考えたのです。

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