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ペイテレビと広告収入西正(2/2 ページ)

» 2005年10月27日 17時05分 公開
[西正,ITmedia]
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 スタート当初は専門チャンネルが多いから、ターゲットを絞った広告を出しやすいと言われたものであった。確かにそれは間違いではない。しかし、スポーツ専門チャンネルを見ている人はスポーツ番組ばかりを見ているわけではなく、アニメ専門チャンネルを見ている人はアニメ番組ばかりを見ているわけではない。その程度のターゲティングであれば、地上波のプロ野球中継やアニメ番組の放映時にも行われてきたことである。音楽も然り、映画も然りである。

 地上波では全く採り上げていないジャンルということであるならば、専門性をアピールしていくことの意味は大きいと思うが、もともと地上波でも放送されているジャンルならば、広告主としては地上波で放送されるジャンルの方を強く意識することになるだけで、ペイテレビの独自の強みとは考えないのである。

ペイテレビの強み

 ペイテレビ事業者が広告収入を増やすべく努力することが無駄なことだとは思わない。加入者増、解約防止が課題である以上、着実に加入者が増えていけば、それを反映するような指標が確立されていく。それに伴って、広告収入も確実に増えていく可能性が高いからである。

 しかし、ペイテレビの事業者にとっての本当の強みは、逆説的ではあるが「広告収入のみに依存しない」ことである。地上波民放との典型的な違いは、蓄積・録画機器の普及に伴い、タイムシフト視聴が一つのスタイルとして定着しつつあることに対する考え方の差に見られる。

 広告収入を柱とする地上波民放にとっては、タイムシフト視聴は歓迎すべきことではない。あくまでもリアルタイムで視聴してもらえないと、タイムシフト時にはCMをスキップされてしまいかねないからである。録画率や再生率をカウントできるようにしたところで、CMのスキップの解消にはつながらない。

 一方、ペイテレビの事業者にとっては、蓄積・録画は一向に構わないのである。仮に再生されることなく終わってしまっても、全く困らない。見ていようが見ていまいが視聴料収入さえ入ってくれば良いというのは極論に過ぎるかもしれないが、加入者の立場からしても、それで十分にニーズは満たされるからである。

 映画チャンネルの場合、いくら映画ばかり放送しているとは言っても、ペイ・パー・ビューでなければ、視聴者の空いている時間に見たい映画が放送されているとは限らない。そうなれば、自然と蓄積・録画が行われることになる。見たい映画を蓄積・録画できた時点で、映画チャンネルの加入者の場合には十分な満足感が得られるはずである。

 仮に1カ月の間に、4本か5本の映画を蓄積・録画できれば、視聴料を払っていても損をしているとは感じられないに違いない。ある調査によると、映画などを蓄積・録画した視聴者が実際に1カ月以内に再生して見る度合いは5割に達しないという。何となくだが、そんなものだろうとうなずける数字である。

 同じく映画を見るのでも、映画館に行ってみる場合や、DVDなどのパッケージを入手して見る場合と比較しても、映画チャンネルの毎月の視聴料に割高感はない。新作として放映された時点で見なければ気が済まないというファンも大勢いるだろうが、少し遅れて見ることになったとしても満足するファンは多いはずだ。

 映画というジャンルがペイテレビに向いていると言われるゆえんであろう。逆に、リアルタイム性が最も強く求められるようなスポーツやニュースといったジャンルについても、地上波の限られた時間の中での編成から落とされるものは多いことから、ペイテレビの存在意義は大きい。

 地上波で放送する場合は、スポーツのゲーム展開やニュースのタイムリー性は無視できないにしても、ある一定のタイミングでCMを挿入せざるを得ない。そのタイミングに不満を持っていた視聴者からすると、ペイテレビであるにもかかわらず、地上波的に一定のタイミングでCMを挿入されたら、不満に感じる度合いは地上波どころではないはずだ。CMが入らない分、他のペイテレビの番宣が行われているケースが多いが、実は思いの他、効果的であるように思われる。スポーツチャンネルの視聴者はスポーツにしか興味がないわけではないことの証左である。

 結局のところ、広告収入を増やしていけばいくほど、スポンサーに対する配慮が番組編成に影響してくることになるのは必定である。

 日本は相変わらず最強のテレビがタダで見られる国である。それでもペイテレビの視聴シェアが少しずつ増えてきている理由は何なのかという点を見落としてはなるまい。ペイテレビの強みは、番組編成が比較的自由で、なおかつ専門特化されていることに加えて、CMが最優先にされていないことへの加入者の満足感に支えられていることにある。

 広告収入を増やしていくことに気を取られているうちに、本当の強みが薄まってしまっては何にもならない。米国本国からのプレッシャーに苦労している事業者も、お国柄の違いだけは主張していくしかないのではなかろうか。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「IT vs 放送 次世代メディアビジネスの攻防」(日経BP社)、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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