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“プロの手調整”を超えた音場補正――ソニー ハイエンドAVアンプ「TA-DA9100ES」インタビュー(3/5 ページ)

» 2005年12月15日 02時41分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 これにより反射音や定在波が入り交じり、周波数特性が細かく波打つように乱れている場合でも、ほぼターゲットとするカーブへと周波数特性を変えることができる。

photo 周波数特性の図。バンド数の少ないグラフィックイコライザやパラメトリックイコライザでは取りきれない細かな周波数特性の乱れを補正するために1/3オクターブ単位のグラフィックイコライザが必須だった
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エンジニアの手調整よりも優れている?

 もっとも、多バンドのグラフィックイコライザと言われると「あぁ、音の鮮度は激減するんだろうなぁ」と思う人もいるのではないか。筆者自身、この話を聞いたとき、31バンドものイコライザで補正した後の音が良いとはとても思えなかった。

 それはDA9100ESのプロジェクトを率いた音質の責任者・金井氏も同じである。「正直言って31バンドものイコライジングをやるなんて、むちゃくちゃだと思いました。この手の処理は音質をキープしようとすると、想像以上にDSPの能力を必要とします。ましてや31バンドとなると、音質をキープできないだろうと思っていたんですよ。ところがエンジニアは開発サイドは逆に31バンドでなければ、良い自動補正機能にはならないというんですよ」

 そう主張するだけあって、音場補正プログラムの開発を行っていたオーディオ事業部開発部2課サウンドコンピューティングエンジニアの浅田宏平氏の開発したプログラムはひと味違った。音の情報量が落ちないのだ。加えて現行のDSPチップでも十分に7チャンネル分の音声処理をこなせる軽さもある。

 「とりあえず31バンドの良さをアピールするため、すでに開発済みだったプログラムを仮のアンプに入れて、開発に関わっているいろいろなメンバーの自宅で実証試験を行いました。もちろん、リーダーの金井宅でも行ったのですが、DCACを使って補正した方がずっと音が良かったんですよ」(浅田氏)

photo オーディオ事業部開発部2課サウンドコンピューティングエンジニアの浅田宏平氏

 金井氏は「私もオーディオ技術者ですから、当然、自分の耳に自信を持っていて、スピーカーの配置などを工夫して音場を整えていたんですよ。しかしDCACを入れると、それまで取りきれなかった配置の制限による癖が、完全にとれてしまったんです。もう“参りました。もう疑いません”という心境でしたね。それと同時に、エンジニアの手調整よりも良い結果が出るならば、すべてのユーザーのためになると思いましたね」と当時を振り返る。

 まだDCACは、左右の耳の位置関係を模した配置の測定マイクを使用し、両方からのサンプリング結果を基に最適な調整値を求める。その速度がまた高速で正確なのだ。この技術に関して、詳しくはDA9100ESのテクニカルノーツにかかれているが、DSP音場プログラムを開発する際、欧州の有名な音楽ホールやソニーピクチャーズのダビングシアターの音場特性を計測する際に使った技術とノウハウを応用したものだという。

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