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コンシューマービデオカメラの表現はどこを目指すべきか小寺信良(3/3 ページ)

» 2005年12月19日 11時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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変わりつつある時間軸表現

 ここ数年の間で、プロ用ビデオカメラでは24Pとか30Pで撮影できるビデオカメラが登場してきている。このカメラで撮影しているときの映像は、目の前の現実にある時間的解像度、つまりリアルタイムで目視している解像度とはあきらかに乖離しているのだが、あとで再生してみると、非常にイイ感じの映像に見える。

 つまり、生々しい動きは必ずしも必要ではないし、そうでない方がどうも記憶の中の時間的解像度とのマッチングがいいように思われる。つまりこれまでビデオカメラが標準としている1/60秒という分解能は、人の記憶に対してオーバースペックではないかと思われるのだ。

 ビデオカメラではこれまで、60i以外のコマ数で撮るということはタブー視されてきた。これを壊してしまうと、テレビに映らないという事情があったからである。だが最近では、動画を見るのはテレビだけに限らない。 PCやiPod、PSPといったテレビ以外のデバイスでは、1/60秒という時間解像度にこだわらないのだ。一方肝心のテレビにしても、デジタル化の大号令とともに国民全員がフラットディスプレイへの移行を迫られているわけだから、やがてインターレース撮影など意味を持たなくなる。

 例えばデジカメやケータイに付いている動画撮影機能では、60iで撮影できるものはそう多くはない。これはメモリの速度やCCDの読み出し速度など、様々な条件でこのスピードが実現できないという制限なのであるが、筆者はその表現に新しさを感じている。

 筆者が個人的に妥当だと思うコマ数は、30Pである。このぐらいが、リアリティがいい具合に減衰されて見やすいのだ。このコマ数の映像は、実はテレビで簡単に見ることができる。テレビコマーシャルのうち、大企業のものは大抵フィルムで撮影されているわけだが、これらはほとんど例外なく30コマで撮影されている。

 どれがフィルムで撮られたのか見分けられないという人もいるかもしれないが、あー、それを説明するのは難しいなぁ。ガンマとか色味とかディテールとか、総合的に見て判断するしかない。最も見分けやすい方法は、そのコマ数に注目することなのだが、それはまあこの文の趣旨からすると本末転倒だろう。

 もう一歩進めて、撮影時のコマ数が変えられることで、映像の表現は格段に進化する。例えば1秒3コマで撮影し、それを30コマで再生すれば、10倍速の早回しとなる。また1秒60コマで撮影し、30コマで撮影すれば、コマヌケがない滑らかなスローモーションが実現できる。

 このような撮影は、動画カメラの原点回帰的な意味合いを持っている。というのも、フィルムのカメラというのは、撮影時のコマ数が自由に変えられるものなのである。

 ビデオカメラはこれまで、こういった時間軸の遊びという事に対して、あまり積極的に取り組んでこなかった。ビデオとはそういうことはできない、やるべきではないという潜在的な思いこみがなかっただろうか。

 思い出とはなにも、生々しく甦ることが最上ではないのだ。それよりも現実性を薄め、感傷的であり芸術的であったほうが、より価値が高いと感じられるはずだ。これからの動画は、無理に1/60に拘泥する必要などない。その呪縛から解放されるところから、ビデオカメラの新しいフェーズが始まるのではないかと思う。


小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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