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混迷を深めるNHK改革の動き西正(2/2 ページ)

» 2005年12月22日 14時45分 公開
[西正,ITmedia]
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 そうなった暁には、チャンネル数を減らすことも検討すべきだと言われる始末だが、結果として実現するのはNHKの縮小均衡化に過ぎないことは明らかだ。

 視聴者がそれを望んでいるという話も聞かない。公共放送として商業ベースに乗らない番組も放送していく必要があることは、誰しも認めるところである。当然のことながら、これは相応のチャンネル数を確保しておかなければ、成しえないことである。逆にスクランブル化の対象を拡大してしまうと、視聴料収入を増加させていくために、商業ベースに乗らない番組が切り捨てられていくことになる。

 公共の資源と言われる電波帯域を寡占的に使用することが認められているのは、放送には国の文化を守っていくという役割が期待されているからであり、その意味で民放にも公共性が求められている。

 受信料の不払いが拡大してしまったのは、NHKの一部職員による不祥事が原因である。そうした不祥事を起こりにくくするような体質改善こそが求められているのであって、放送事業の規模を縮小させることなどは、何の解決策にもなりはしないだけでなく、国民に対して何の説明にもならない。

 IT企業による放送局の買収問題が続くのも、放送局の制作するコンテンツに魅力があることの裏返しである。規模を縮小させていけば、いずれ良質なコンテンツは生み出し得ない状況に陥ることになりかねない。

 一方で放送と通信の融合を唱えるのであれば、新たな技術に対応した高度なサービスが提供されるよう、放送事業者に課せられる役割が大きなものであることは明らかであり、そうした側面を全く無視したまま、時の世論に便乗するだけの策を施すことを「改革」とは呼ばない。

 本来の目的がNHK改革にあるのならば、あまり余計な思惑を絡ませるべきではないだろう。本質的な議論から外れないようにするためにも、改めて問題の所在を再確認する必要がある。国民を煙に巻くような改革案などがまかり通らぬことを期待したい。行財政改革とは全く異質な問題であり、文化は一度壊してしまったら元には戻らない。そのことを、十分に認識しておくべきであろう。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「IT vs 放送 次世代メディアビジネスの攻防」(日経BP社)、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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